どうしよう、まじめにどうしよう。頭を抱えてカウンターに項垂れる司。
「勢いとはいえ、なんであんなこと言ったんだよ!?俺!」
「うんうん、わかるわー。それはズバリ!仲の良い友達が取られそうで、腹が立ったんでしょー」
ミナコの言葉はぐさりと彼の心臓に刺さる。図星だからだ・・・。
「まあ言ったことは今さら取り消せないし、元々・・・来シーズン復帰するのは決めてたのよね?」
「・・・はい。たぶん、最初で最後です」
フィギュアスケート男子選手は俺の年の前後で引退することが多い。中には三十代になって続ける選手もいるが___大体が体力や能力に限界を感じるか、次世代の選手が続々と登場して己の去り時を感じてプロに転向する。
俺もトレーニングを続けてるとはいえ現役から三年も退いてる。
失った時間は取り戻せない。だからこそ次が最初で最後なのだ。どんな結果にしろ後悔のない試合をしたい。後悔に苛まれたこの三年間は惨めだった。
現役時代は一度もヴィクトル・ニキフォロフに勝てたことはない。いつも二位か三位だったから・・・。それに勇利とユーリも成長してきてるし、他の強い選手もいる。来シーズンのメダル争いは熾烈を極めるだろう。
「でも嬉しい!司の滑りがまた見られるんだものー。コーチはどうするの?」
「それが迷ってるんですよね。あの人はもうコーチを引退してるから」
三年前まで俺のコーチをしていた彼に、きっとまたやりたいと思う時が来ると頑なに言われて残したエリジブル。恩師のあの人には感謝してもしきれないほどの恩がある。
「うーん、司がヴィクトルに挑戦状叩きつけなければお願いできたかもしれないのに」
「や、それはー・・・ヴィクトルには頼みませんよ」
今のフィギュアスケートはロシア勢が強い。それだけ優秀なコーチや設備の整った施設があるのだろう。
忘れてた。アイツにチケット取れるか確認の連絡しないと。
「ああ!そっか、そうだ・・・ミナコ先生、コーチのアテあります!!」
カウンターをバンっと叩いて立ち上がる彼に「司!??」と、ミナコは驚く。注文していたお酒をぐいっと飲み干し___。
「ちょっと、連絡してきます!!」
お代を置いて飛び出してしまった司。一人残された彼女は溜め息を付いてその背を見送った。