33.「意気地なしでごめん」

『お前、やっと電話してきたと思ったら・・・。三年間、どこで何してたんだ!』

電話越しに大きな声で怒鳴られ耳が痛い。思わず携帯を耳から離した。他にも色々と言っていたがそれは無視して口を開く。

「ごめん、久しぶり。俺・・・決心が付かなくてさ。お前には言おうと思ったんだけど、怖かった」
『・・・・・・』

相手は静まり、静かに俺の言葉を聞いてるようだった。電話越しだから表情は分からない。けれど、きっと困ったような顔をしてるだろう。

何も知らされず、三年も一切の連絡を断っていた友達からの連絡。余程のことがあったとすぐに予想が付く。

「言い訳はしない。三年前のグランプリファイナル、直前になってスケートが怖くなった、あれは俺の弱さが原因だ。二十を越えたあたりから選手として居られる時間の短さを感じるにつれて、俺は成績を残すことしか頭になかった」

ヴィクトルが出る試合は必ずといっていいくらい、俺は勝てないからさ。選手として居られる残りの時間の焦りと結果を残せない恐怖。それが全てだった故にスケートをしてる時はモノクロに見えた退屈な世界。

『そうだと思ってた。お前は昔から周りを困らせるのが得意な癖に根は物事を変に捉える。お前は今、フィギュアスケートが好きか?』

呆れたようなでも優しいその声。その問いに、今までのことが脳裏に浮かぶ。初めて挑戦したスケートで転んでしまったけど優子が手を貸してくれたことや、なかなか上達しない俺に豪が教えてくれたこと。辛く苦しい練習を共にこなした勇利との思い出。全てがスケートに出会わなけれなかったものだ。

あの綺麗な氷の上を滑られることが一番、俺は幸せだった。

「・・・好きだよ」
『そういうことだ。難しいことじゃないだろう』

(そうだな。お前の言う通りだ)

初めての試合から会うたびに気にかけてくれた友人はどこまでも優しい。それが女性に分かってもらえればいいんだけれど。いつも振られてばかりの友人の姿を思い出して、無意識に笑ってしまう。

『ツカサ、今ろくなこと考えてないよな』

「悪い悪い。なんでもねーよ。それと、来シーズンはお前ともまたメダル争いが出来るかもしれない」

『ッ!!?復帰するのか』
「ああ、だからお前に連絡したんだ。やっと決心が付いた」

司はこれからのこと、来シーズンのことを彼に話す。電話の向こうの彼は心なしか泣いてるようだ。嗚咽の混じった声で「やっと、お前に勝てる」と感極まっていた。

「信頼してるお前に頼みがある。チケットのことじゃないからな」

『出来る範囲なら』と聞こえ、俺はにやりと笑う。アイツは頼まれたら断れない性質だ。彼の事をよく理解してる司は用件を話した。

「ギオルギー、来シーズンのコーチをお前にやってもらいたい」と___。

『俺がお前を!!?それに俺はまだ現役を続けるつもり「だから、練習の合間や空いてる時でいいって。お前の芸術センスを評価してるつもりだ、だからお前に頼みたいんだ」っ・・・ツカサ、こっちに来るのか!?』

てっきりヴィクトルのように日本へ来てコーチをすれと言われたのだと思ったらしい。まあ、ヴィクトルは自ら勇利の元へ来たのだが。

「そのつもりだ。ロシアをホームリンクにするのも良いもんだろ?」
『試合以外はいつもだらけてたお前に、こっちの寒さは耐えれるか不安だ』

失礼なことを言う。こっちは北国生まれだっての。ロシアほどの寒さではないかもしれないが、暑さよりは平気だよ。住む場所もギオルギーの家に押しかければいいしな。アイツは女の子を連れてこられないと怒るかもしれないけど。

『はあああ・・・お前はいつもそうだ。コーチの件は俺の一存では決められん、今すぐには回答できないが良いか?』

「無理を言ってる事は分かってる。今年中であればいつでもいいよ」

そうして、電話はぷつりと切れる。どっと疲れが押し寄せる。でも、それ以上に安堵感と解放感が司の胸の内を占めていた。