(思い出すんだ、いつもの練習通りに)
目を瞑り、自分に気合を入れる。今日はグランプリファイナル以来の公式試合。ヴィクトルも・・・司さんも見てくれてる。僕は負けられないんだ。
勇利は曲の開始と共に演技を始める。その一瞬の空気の切り替わりに今日来た観客達は引き込まれていく。
(美しいカツドンに僕はなる・・・!)
観客達は美女に注目する男達、けれど美女が狙うのは町一番の色男。ロシアの銀色の色男、ヴィクトル・ニキフォロフだ。
勇利の演技はまさに男を手玉にとる美しい女そのものになりきっている。ヴィクトルとのあの猛練習を見てきた身としては、今の勇利は去年のグランプリファイナルよりも輝いて見えた。
男達に色気を魅せる滑らかなステップ、さらに大胆にもその美しさを武器にする両足のイーグルからのトリプルアクセル。通常ならイーグルからジャンプに入るのは難易度が上がるためあまりする選手はいない。俺だってやらないだろう。
(本当に、いつも驚かされてばかりだよ・・・勇利)
わずかに着氷が乱れた気がするが成功させてしまった。そして続くように四回転サルコウ。惜しい!片手を着いてしまったが、回りきっていたから減点で済むかもしれない。
勇利の成長には驚かされてばかりだ。病気だからと一番に大切にしていたモノを諦めてしまっていた俺は、試合でのプレッシャーや緊張と闘いながらも滑る勇利を見て自分の弱さを痛感して・・・羨ましかったんだ強く在れる勇利が。
俺にとって彼はリンクメイトで、可愛い後輩で・・・ライバルだ。
今だって選手の自分を思い出してこんなにも刺激されている。勇利に勝ちたいと。
四回転と三回転のコンビネーションジャンプは回転不足があったが最後まで滑り終えた。ミスも見られたが難易度の高い技を成功させているために得点は高い。
「94.36!ヴィクトル、パーソナルベストを更新できたぞ」
共に観戦していた隣の彼を見れば、思っていた表情とは違っていた。
「うーん・・・こういう時、コーチって教え子には怒ったほうが・・・褒めたほうがいいのかな?」
点数と勇利の演技に納得いっていないようだ。リビングレジェンドと言われる彼にしてみればそうだよな。
「コーチとしてこう伝えた方がってゆーより、ヴィクトルが勇利をどういう選手に見えていて、どうしたらその選手を上に導けるかじゃないか?」
「そっか、そうだね。ツカサって俺よりもコーチらしいこと言うね〜」
そう話している内に観客への最後の挨拶を終えた勇利が戻ってくる。