「ハーイ!勇利のコーチになりにきたよー!」
温泉から戻ってきて広間に来てみれば館内着を着て美味しそうにカツ丼を頬張る銀髪の麗人。一体、どうしてこうなった?
(それより・・・・・・)
気まずい。ひじょーに気まずい。聞こえないフリをして俺は蹄を返して広間を出ようと、した。したのだ、だがミナコさんにガッシリと肩を掴まれ逃げることは叶わなかった…。
「司〜?なんで逃げるのかしらー」
「ん?ツカサ・・・?聞いたことがあるなぁ、勇利の友達かい?」
「あー司さんは・・・えっと・・・」
ちらちらと様子を伺うように僕は司さんを見てしまう。三年前の事だからヴィクトルは覚えてないようだけど、司さんと彼は同じ大会に出場してた。司さんは現役時代のことを語ることはあまり好んでないようだし。言っても良いのだろうかと不安になったけど___。
「司は十歳の時にここに引っ越してきて、それからの縁よ」
「こんにちは、ヴィクトルさん。勇利とは付き合いが長い腐れ縁ってやつです、ちょくちょく此処にお邪魔してるんですよ」
人好きのする笑みを浮かべて俺はそう言う。覚えていないのなら好都合だ。
それにヴィクトルはきょとんとした顔を一瞬浮かべた後に、満面の笑みで「よろしくね、ツカサ」と互いに握手を交わす。
「よろしくお願いします、ヴィクトルさん」
「俺もツカサって呼ぶからさんはいらないよ」
「分かった、ヴィクトル」と彼の申し出にこくりと頷く。それにしても何で彼はここにいるんだろうか。
(・・・日本を拠点にするのか?)
「聞いてよ司!ヴィクトルが勇利のコーチになるの!!」
「はぁあああ!?」
嘘だろう、彼は来シーズンも期待されている。思わず驚嘆の声を上げた司。誰だってそうだ。あのリビングレジェンドのヴィクトル・ニキフォロフが引退も発表していないのにいきなり勇利のコーチだなんて。
少なくとも俺が現役だった頃は勇利は人見知りで、ヴィクトルとはあまり接点がなかった。
「そうなんだ、でも子豚ちゃんは昨年のグランプリ以前の体型に戻してからの話だけどね」
(確かに今の体型では選手として厳しい)
ちょうど俺とミナコ先生で勇利のダイエットプランを考えてた。
「司さん、僕・・・」
「分かってる、続ける決心をしたんだろ?」
「はい!」と勇利は力強く頷いた。その光景をじっと見つめるヴィクトル。
「二人はすっごく仲が良いんだ。俺もコーチとして勇利のこと全部知りたいな」