07.「今は冷たいだけの指」

ザーっと氷の削れる音が響く。そして削れた氷はキラキラと輝いて舞い飛び、とても綺麗だ。軽やかに舞う彼の演技は三年前のFS。未だ衰えることのない彼のスケーティングは現役選手にも劣らない。

司の演技の端々で見られる表情は安易に情景を思い描くが出来る。

「ハァハァ・・・はっ・・・はぁ・・・」

演技が終わり、曲も止まる。FSの演技にはかなりの体力を消耗してしまう。肩を上下に揺らし深く息を吸い込み深呼吸を繰り返して息を整え、流れ出る汗を手で拭った。ペタリと汗で張りつく髪を後ろに掻き揚げて再び練習を続けるために歩みを始める。

(こんなんじゃない・・・"翼"は・・・己の自己に勝ち、磨き上げ・・・それは大きな翼となる。それは一人では出来ない、他と協力し・・・初めて達成することが出来る・・・)

「司さーん、少し休んだほうが良いんじゃないですか?」
「そうだな。ごめん、こんな時間に空けてくれて」

「いいっすよ、いつものことだし。司さんのスケーティングを見れるのも役得ですから」

後輩の豪にそう言われ「ははは」と乾いた笑いを浮かべる司。豪の言う通り、誰にも見られたくないがために、閉館後の一時間だけ貸切でレンタル。勇利にもミナコ先生にも話していない。

豪と優子にだけ事情は説明していた。一応、俺もここでスタッフとして働き元選手ということで上層部にもレンタルの件は許可を貰っているから彼らには心から感謝している。

「豪、今の演技どうだった・・・?」

「え・・・いきなり言われてもなぁ」と困った表情を浮かべ考え込む豪。暫し思案し、そして口を開く。

「そうですね・・・えぇと。テーマに沿って演技はしてるようで、そうじゃない・・・迷走、司さんらしくない・・・そんな滑りに見えました」

(俺らしくない演技、か)

「参考になった、豪・・・ありがとう」