07.「影になりたかった黒猫」


「なんで僕が参加しなければならないんだッ・・・・・・!!」

ドンっと苛立たしげに血液錠剤が入ったグラスをテーブルに置く。置いた勢いでグラスにピキリとヒビが入ってしまったが李土は気づかない。すでに中は飲み干されていたために、中が溢れることはなかった。

(目が醒めてみれば、一条家の屋敷だし・・・正装に着替えさせられてるし・・・)

あんなにも拒んでいたのに当麻は無理やりに俺へ睡眠薬を盛って、ここまで勝手に連れてきたのだ。今は居ない夜会の主催者を恨む。カウチに座りこむ俺の横には悠がにこにこと笑っていた。弟も一枚噛んでいたのだろう。

悪びれず堂々としていた。

「こうして、お兄様の初の夜会の参加の場を設けてくれたんですから・・・一条さんに感謝しましょう?」
「・・・・・・悠。僕はお前を信用してたんだ」

「こうでもしないと、お兄様はいつまで経っても夜会へ参加してくれませんと一条さんが困ってらしたので。ストレスで胃に穴が開きそうでしたよ」

今までは未遂で済んだのだが今回はやられた。それも悠が手伝っていたのならば俺も気づくことはないからな。アイツは心の中でほくそ笑んでいるはずだ。外見は優しげな王子のような男でも中身は俺よりもドス黒いから。

見た目は爽やかでのほほんとした心優しい青年に成長した悠。俺とは大違いだ。きっとお母様に似たのだろうな。

(俺は・・・お父様似か)

あの人に似るのだけは御免被る。李土は深く溜め息をつくと、しゅるっとネクタイを外す。かっちりとした服装が嫌いなために、ラフな格好へと崩した。

「僕もお兄様の初めての夜会を傍で見られたら嬉しいです・・・・・・どうしても嫌ならば・・・玖蘭の屋敷から迎えを来させましょうか」
「・・・・・・」

一条・・・お前これを狙っただろ。アイツが戻ってきたらただじゃおかないぞ。しょんぼりと寂しそうな彼に、李土はため息を付くと観念したように口を開いた。

「今回だけは参加する」と―――。諦めたような表情の兄に悠はひどく嬉しそうに微笑む。

***


***

夜会とは貴族階級以上が集まるパーティー。そこでは様々な駆け引きがなされ、金と権力の繋がりを得るには格好の場所だ。そして何よりも最大の見所は一条家が主催という所。一条家は貴族院の筆頭長であり、唯一多数の純血種と縁がある。

ごく稀に純血種が招待されることもあり、彼らはこぞって参加した。あわよくば、純血種を有効利用しようと―――。

「あれが・・・玖蘭家のご長男の、玖蘭・・・李土様」

彼らは王にも等しい彼を前にして跪く。それをちらりとも見ない李土は王者の風格が漂っているようにも見て取れた。

「次代の当主になれるお方・・・怖いほどに惹きつけられますわね」
「あぁ・・・そうですな。噂に聞く通り、純血の君の中でも、誰よりも頂点に相応しい方に見えますね」

夜会の来賓者達は彼から秘められた力を感じ取った。純血種でありその実力も未知数であるが、現在いる純血種の中では、おそらく上位の力を持っているだろう。
そして彼の珍しいオッドアイの色彩には思わず見入ってしまう。赤と青の奥深くにある底なしの闇。溺れてしまいそうな錯覚を彼らは感じ、視線を彷徨わせる。

再び視線を純血の君へと戻せば弟君と話し込んでいるようだ。時折、冷酷な表情が崩れ人間味のある顔になられる。
身内にしか見せない笑顔なのか。その表情にほうっと見惚れてしまうのは、彼を目の前にすれば誰でもそうなってしまうだろう。

「・・・・・・噂によれば、血がお嫌いだとか」

「血液錠剤しか受け付けない体質だと聞き及んでいますよ」

純血種の飢えは通常のヴァンパイアとは違って、かなりのものだろう。血を受け付けることが出来なければ、余計に・・・。

「あくまで噂でしょうね、そのような特異体質なんて今まで一度も聞いたことありませんもの」

「そうですな・・・」




戻る / 次へ

Back

合計13ページ

Home