03.「貴重品はあなただけ」


「ほら、悠・・・危ないよ。そっちに行っては駄目だ」

背の高い李土の膝までしか身長が無い幼子。とたとたと危ない足取りで庭を歩く弟の後を俺はゆっくり付いて行っていた。可愛い弟は好奇心旺盛なのか、面白いものを見つければ猪突猛進というか・・・。

ヒヤヒヤもので心配であるがそこも可愛い。日の光の下でもこんなに元気だ。李土はというと、やはりヴァンパイアなためか少しばかり眩しげに日傘を差していた。
悠はもう三歳。ヴァンパイアは最初こそ人間と同じ成長速度で、青年期に入るとゆるやかに年を取らなくなる。

「おにーしゃまぁーこぇなに?」

玖蘭家特有の猫っ毛を風邪にたなびかせ、悠はくるりとこちらを向いてまん丸な目を楽しそうに細める。彼が指さす方には玖蘭家自慢の薔薇に止まる蝶だった。

「それは蝶だよ・・・花の蜜を吸って生きる生物だ」
「せーぶつ?おうちにつれてってもいい?」

きょとんとする弟に、李土は彼の手から蝶を捕まえ解放してやる。ひらひらと蝶はどこかへ飛んで行ってしまった。それに悠が残念そうに顔を伏せてしまう。そんな可愛い弟の頭を撫でてやればすぐに機嫌は直ったようだ。

「生物は自由に生きてこそ美しいんだ。お前もそのうち分かる日がくるよ」
「あい!」

弟を抱っこして日傘の中に入れる。あまり日の光の下にいては体に悪いから。

「お母様が待ってるから戻ろう、悠」

***

「李土様!!本日こそ、我ら主催の夜会にご参加して頂きたく参りました」

「御前失礼いたします」と金髪の男は俺の足元に跪く。傍らには泥まみれの弟がキャッキャと喜んでいる。それもこの男、一条当麻が原因だ。いつもの彼ならば女性たちが騒ぐ程の色男だろうが。

「何度も申し上げている通り、李土様には夜会へ行ってもらいますよ!」
「僕は興味ないな、お父様とお母様が参加しておられるのだから良いだろう。それこそ、純血種が何人も参加すれば他の参加者が萎縮するのは明白だ。

世間では僕が何て言われてるのかも分かってる。余計な面倒ごとになるのも御免だ」

「しかし!」と語尾を強める一条は詰め寄ってくるが、構わずカウチに座る。

「お前が何故、こうも僕を外に出したがるのかは知らないし興味もない。けれど、僕は今までどおり外界とは関わらずに生きていく」

そう言い放てば当麻はがっくりと肩を落とす。しかし、コイツは簡単に引き下がる男ではない。斉藤もそうであるが、自分の周りはどうしてこうしつこい奴らばかりなのだろうか。

(あと・・・・・・)

「この屋敷に入る前に、せめて泥だけでも落とせ一条。お前、汚いぞ」

今や、悠と一緒の泥まみれである。ここに来る道中、庭先で泥遊びをしていた悠に加わって一緒に遊んでいたのだろう。吹き出しそうになるのを必死に押さえて俺は、メイド達に命じて彼を風呂に入れさせる。本人は用が済んでないと抵抗むなしく、玖蘭家のメイド達には敵わない。

衣服に泥が付くのを構わず、悠を抱き上げて俺も自室にある浴室へと向かうのだった。




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