見下ろす景色は愚鈍な革命


07.カナリアは碧を唄う


「これが始まりのヴァンパイアか……悍ましいものだ」

石棺の中には眠りにつくボロ布をまとったヴァンパイア。同じヴァンパイアなのだから、かつては美しかっただろうその見目も今は見る陰もない。

傍らに控える一条に気にせず、カトラスを使い赤子の血を棺の中へ流し込む。

腕の中の赤子は、俺の甥。悠と樹里の初めての子だ…。赤子の名はカナメ。この始祖から名前を取ったと聞いた。

二人によく似た赤ん坊は俺が攫った。始祖の復活には最も濃い、玖蘭の血が必要だから。

ぽたりと流れた赤子の血を含んだ始祖は、次第に身体の潤いを取り戻していく。だが李土はこの後のことを予想していなかった。

「ッ……」

体を突き抜けるヤツの手。

「李土様!」と背後では一条の声が聞こえるが、身構えるアイツを右手で制し目の前の化け物を見据える。

「お前が、僕を……目覚めさせた…?」

目覚めたばかりで何が何だか分かっていないのだろう。自分の身に危険が及ぶと本能で察知し僕を攻撃したらしい。

ズズッと腕が引き抜かれ、その反動でバランスを失った李土はよろめき地面へ膝を着いた。

ヴァンパイアだけど、この痛みは相当だ。一条、こんな化け物喰らえって……無理だろ。クソ野郎が!

片腕に抱く赤子は落とさず、一条へと投げ渡す。大事な純血種を落下死させるわけにはと、彼は慌てて大事そうに抱きとめた。

このままでは相手にできないからな。

(大誤算だ…一条、後で覚えておけ)

「剣を渡せ!」と命じれば、一条からカトラスが投げ渡された。目の前に対峙する始まりのヴァンパイア相手にどれだけ通用するかは分からないが…。

鞘から抜き、メタモルフォーゼの力を使ってアイツの背後から俺は剣を振りかぶった___。


***


「一条、お前が言っただろう…?」
「……申し訳ありませんでした!」

目の前で土下座する一条の頭を踏みつけ李土は冷めた目で見下ろす。しかしその全身は包帯やガーゼだらけである。

「…いくら始祖といえど。目覚めたばかりでのあのお方のお体では、万全の状態の李土様には敵わぬと…」

だが、予想よりも遥かに始祖の能力は果てしないものであった。それと一条には一つの疑問が残っていた。

(李土様は本当に全力を出されていたのか…?)

加減をしていたようにも見えたのだ。

そして李土様は圧倒的大差で負けてしまわれ、駆け付けた悠様と樹里様によって元老院の厳重な監視下に置くことを命じられた。元老院は最早、李土様の支配下にあることを知らずに___。

私は事前にその場を離れていたために、難を逃れることはできた。

「李土様、お二人の幼き純血の君はどうされるおつもりですか」

「……」

悠と樹里の下から攫った赤子のことだろう。家族を愛し、大切にする二人の愛の結晶でもある息子…俺の甥を浚った事は心が痛む。

「今更、帰すことはできない…。死んだとされているのだからな」

二人が名付けた息子のカナメ。俺の可愛い甥であることには変わりはない。カナメから、結果的に家族を奪うようなことをしてしまったんだ。

始祖を喰らった後には、二人の元へ帰す予定だった。

しかし計画が狂い、今は一条の屋敷にいる。そして、どうやら長子は死んだとは発表されていないらしい。

「閑同様、ここに置いておくしかないだろう…」

悠に似た癖っ気、樹里に似た目元のカナメはきゃっきゃと腕の中で楽しそうに笑っていた。するりと頬を撫でてやれば目を細める仕草は悠によく似ている。

「カナメ、今日から僕はお前の義父だ」

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