10.脳が疼き、喰らいつけば、謎の味。
「そんな嫌な顔をして、婚約者殿は私のことが嫌いのようね」
「閑……」
無感情の瞳で自分を見る彼女の口からそう零れた。出会ってからかなりの年月が経ったな。閑はより一層、俺への扱いが酷い。
まあ、そんなことはいつものことだから気にしないけど。
「其方のその仏頂面は相変わらずだな…。それで、私に何の用だ李土」
「合わせたい者がいる…僕が訳あって預かっている」
「カナメ」と呼べば、ノック音と共に「失礼します」と幼子の声が響いて扉が開かれる。ゆっくりと開かれた扉から入ってきたカナメ。少し緊張してはいるが落ち着いているようだ。
対照的に閑は目を丸くしていた。おそらく、勘違いしているだろう。
「驚いた…李土、其方は婚約者がいるというのにやることはやるのか。尻軽め」
「違う、僕じゃない。いや……僕の子だ」
「…お父様?」
なんとも歯切れの悪い李土に閑は目を細める。そして視線を入口に佇む少年へと向けた。
目鼻立ちは似ている節はあるが、全体的におっとりした雰囲気だ。そしてあの癖っ気は玖蘭家特有。彼の持つキリっとした顔立ちに似ているようでじっくりと観察するとそれ程似ていない___。
それに瞳は李土の赤と青、そのどちらも受け継いでいなかった。
「あの、僕は…どうしたら?」
「カナメ。僕の婚約者の緋桜閑だ…」
「お父様と、同じ…純血種…」
その呟きにこくりと頷く。
「それでカナメ。お前はこの男が父で不満はないのか」
不審な笑みを浮かべる閑。何を企んでるんだ…?
俺が怪訝な顔をしている間に彼女は静かに立ち上がると、カナメの元に歩み寄る。子供と同じ背丈まで屈んだ閑はじっと感情のない瞳で見据え。
「お父様は僕を…たいせつにしてくれてます。お母様は亡くなったと聞きました…でも、僕にとって知っているのはお父様だけですから…大好きな父です」
緊張したようにカナメは意を決して彼女に、最後は恥ずかしそうにそう言った。
「ほう、李土。お前の力を使って洗脳してるわけではないようね」
「!!?僕が、そんなことするわけないだろう」
何を突然。ふざけたことを言う閑に李土は困ったように額に手を当てる。「つまらない」と、一言そう残して彼女は部屋を出て行ってしまった。部屋に残された俺とカナメ。何をしたかったのか___。
(まあ、無事に二人を合わせることに成功したからいいか)
「"叔父様"、これで良かったんでしょうか…?」
「…それでいい」
(……)
「カナメ、お前は…本当の父と母に会いたい…?」
「叔父様はみんなのために、頑張ってますから。ぼくも叔父様の役に立ちたいです、本当のお父様とお母様ならきっと理解してくれるとおもいます…」
にこりと微笑んでそう言い切った彼に李土はカナメを抱き上げた。
「僕のエゴで、お前を利用したのに___ありがとう」
ぎゅぅっと抱きしめ、彼の頬へキスをする。カナメは恥ずかしがっていたが素直にそれを受け入れた。幼い子供はまだ吸血をするために牙が生えてない、その代わりに相手から生気を吸うのだ。
今もこうして李土から生気をもらっていた。