見下ろす景色は愚鈍な革命


01.私を評することなかれ


「ッ・・・・・・っ・・・」

手を下した事には後悔していない。

純血種といえど、やはり同等の者を相手にするのはキツイ。それも二人もだ。しかし、これからの代償と思えば軽いモノか。

左腕から流れる血に思わず舌打ちをする。彼の左肘から先が無かった。再生できない原因は一つしかない___。

目の前には息絶え、結晶化が始まっている二つの肉塊。その傍らには俺の右腕を切り落としたカトラスが鎮座していた。

「貴方達は、僕の・・・"俺"の本質を思い違いしてます。僕の望みを叶えるには貴方達は邪魔な存在だ・・・・・・他の純血種もこの世界も全て・・・」

(さようなら・・・お父様、お母様)

母が愛用していた対ヴァンパイア武器であるカトラスを拾い上げる。玖蘭家には稀に対ヴァンパイア武器を扱える者がいる。

バチバチと火花が散り、俺の左手は肉が溶け落ち骨となる。それでも構わずそれを鞘に納めた。

(永遠といわなくとも、もう少し悠と樹里と過ごしたかった・・・・・・)

メタモルフォーゼの力を発動して、李土の体はその場から消え去った。


***


「悠、樹里・・・・・・しばらく見ない間に大きくなったな」

悠は読んでいた本を樹里は飲んでいた紅茶のティーカップを取り落としてしまう。ここ数十年滅多に合う事が許されなかった___大好きな兄が目の前に現れたからだ。

取り落としたモノに構わず「お兄様!」と二人は彼の元へ駆け寄る。

李土は普段かっちりとした正装を嫌い、大きめシワの入った黒のガーゼシャツを着て上からコートを羽織っただけのラフな格好をしていた。久しぶりの弟妹達との再会に喜びを噛みしめる。

(・・・本当に大きくなったな)

久しく会う事のなかった可愛い二人の弟妹たちは成長し、今では人間で言うと十代半ばくらいの外見だった。彼らの成長を傍で見守ることは出来なかったけれど、こうして会えるだけで幸せだ。

「お兄様、どうしてここへ…?お父様とお母様のお許しが出たのですか?」
「そうよ、あのお父様がお許しになるなんて・・・」

「・・・・・・否、勝手に来たからきっと激怒するだろう…それでも、一目お前たちに会いたかったから」

そう言って李土は悠と樹里を腕の中に閉じ込める。

「今日は会う事が出来て、嬉しい。今までで一番の大切な思い出だよ」

弱々しく疲れ果てた兄の様子に二人はとても心配した。自分たちの知る兄、李土はいつも僕たちに笑顔でいたから。

なのに今のお兄様は、長い時間火を灯され消えかけている蝋燭の様。

「本邸で何か___あったんですかお兄様」
「・・・・・・何もないさ。お前たちは、もうじき結婚するんだろう?」

「はい、来月の初め頃に…その時は、是非お兄様も来てください」

「僕はお前たちの兄なんだから、必ず行かないといけないな。まだ見ぬ甥か姪も楽しみにしてる」

「ちょっと、李土!!?」と顔を真っ赤にして怒る可愛い妹に俺はおかしくなり、笑ってしまう。さらに怒って何か言っているようだけど、気にせずカウチへと腰かけた。

「せっかく二人きりの所に割り込む形で来てしまってすまない・・・。僕もここに来ることはさっきまで思ってなかったんだ、けど急にお前たちに会いたくなって…」

「そんなことないですよ、僕も樹里もお兄様が大好きですから」

悠の発言に思わずため息を付き、そして自身の手で顔を覆い隠す。悠は、何故こうも戸惑いもなく恥ずかしいことを言うのだろうか。

樹里も俺に似ているから、毎日歯の浮くような台詞を言われて恥ずかしくなっているに違いない。

カチャリ、と淹れたてのコーヒーが目の前に置かれた。自分の好きな銘柄だった。覚えてくれていたようで嬉しい。

湯気が立つコーヒーの香りを楽しみ、その味を堪能する。

「李土は暫く、ここに滞在するの?」
「僕もそうしたいが、泊まることは出来ない・・・」

李土の話を聞けば、玖蘭本家の屋敷から自らの足で来たのだと言うではないか。純血種、それも玖蘭家の長男ともなれば誰か家人が付くのが普通だ。

本邸から、此処別邸まではかなりの距離がかかる。純血種の能力を使ったとしても一日はかかるだろう。

だから、お兄様はあんな疲れた表情をしていたのだろうか?

「斎藤さんも心配してましたよ」
「・・・・・・そうか」

(斎藤・・・また懐かしい名だ。生きていたのかアイツ)

昔は自分付きだった執事のクソじじいだ。アイツは数年前、年齢を理由に執事業を引退し、俺付きの新しいお目付け役は一条家の者になった。そして今は娯楽だといって、斎藤は悠と樹里に住み込みで仕えている。

アイツの孫もここでメイドをしていると前に聞いた。

「お兄様は緋桜家の方と婚約されたそうですね。本家から手紙で通達が来てたので」
「・・・・・・婚約も何も、あの人たちが勝手に決めたことだ。僕の意志ではない」

「そうなの・・・なんにせよ、お父様には逆らえないものね・・・・・・。純血種、純血種って・・・そればっかり」

不満そうな顔を浮かべる妹に思わず苦笑いを浮かべる。

「だからこそ、僕はお前たちがこれからの未来を託したいと思ったんだ。悠、僕の代わりに当主を継いでくれてありがとう」

「いえ・・・僕は、お兄様に言われてなったわけじゃありません。お兄様を見てなりたいと思ったんです」

「・・・?」

(どうして俺を・・・?)

「だから、貴方が気に病む必要はありませんから」

いつもの悠とは違う、当主としての姿がそこにあった。その姿に李土は安心する。

「悠でよかった」と____。

李土が屋敷を去った後、入れ違いで訪れた家人によって玖蘭本邸での訃報は二人へ知らされ。ヴァンパイア界に激震を走らせることになるのだった。


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