見下ろす景色は愚鈍な革命


03.何が正解かなんてわからないなら


自分と同じ純血の幼い婚約者。銀糸を揺らし、無感情なその瞳には自分が写っている。

両親は既に他界し、他に身よりもなく天涯孤独だという。少しばかりの同情心は湧くが、それだけだ。冷たいと言われるだろうが、他人である。でも、何故かその少女を放っておけなく___。

表向きは一条家が成人するまで後見人を務めるということで、李土が引き取ったのだった。

(だが……)

「李土、この紅茶は美味しくない。わたしにこんなものを飲ませる気か」

「……」

ひゅっと自分の顔すれすれに何かが飛んで後ろでカシャァアンと音が鳴る。

後ろを向けば、視界に入ったのは割れたティーカップに壁を濡らす先ほど淹れたばかりの紅茶。

こんなに我儘だなんて聞いてないぞ。あまり他に興味を示さず、幼子らしくないほど落ち着き払った手のかからない娘だと。

一条に手を引かれて連れられて来たときは飼い猫のように大人しかったし。

それが、こうまで豹変するとは誰だって思わないだろう。

「閑……あまりメイド達の手を煩わせるな…。それに、食器を投げるのははしたないだろう」

クシャリと閑の頭を撫でつけ、割れた食器を拾い上げようとするメイド達に謝れば彼女達は驚いたように慌てて首を振る。

「純血種のわたしには叱って…メイドには優しくするの…」

むすっと頬を膨らませる少女に思わず吹き出しそうになるのを堪える。両の手で彼女の両頬を包み込み、ぎゅむっと押せばひゅっと空気が抜けて膨らんだ頬は元に戻った。

「純血種とか貴族とか関係ない…人間もな。どんな者でも悪い事は叱る、良い事は褒める…だ。お前は純血種としての教育を受けてきただろうが、これからは違う」

「獰猛な獣の前にした草食動物のように…ただの餌でしょう?ヴァンパイアより遥かに弱くて脆い生き物がなぜ同列なの」

こてんと首を傾げる彼女に李土は再び口を開く。

「人間やヴァンパイア、様々な命あるモノは等しく平等だ。上も下も存在しない」

「びょう、どう…?」

まだ幼子にこの手の話は早いか。

「ヴァンパイアと人間、種族の壁を取り壊して仲良くするという意味だよ」

「…なかよく……」

ぽつりと呟く。そんな彼女を抱き上げる。急に自分の体が浮上した感覚にビックリして目を見開く閑にクスリと微笑んだ。

「仲良くするということは相手を大切に思う事…閑もそんな相手を見つけろ」

「……わかった」

こくりと頷いた少女に李土はゆるりと頬を緩ませた。

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