「秋人…?」
飛びつく子供。それを抱きとめると視線の高さまで持ち上げられた。自分より幼い弟のような存在の親戚の子だ。
数か月前に叔父によって紹介され、それから何度か会ってる。
ふわふわとした栗色の髪に赤と青の不思議な色合いの幼さの残る少年。名前は秋人。
親戚の子供だからか、みんなから兄弟のようにそっくりだと言われるけどよくわからない。
そう言われても嫌だとは感じない。
「千里お兄ちゃん、お仕事お疲れ様です。学校の方はいいんですか?」
「ん…大丈夫、近くでたまたま撮影してたし。秋人は?」
「先生と勉強をしてました」
彼は学校に通いながらモデルをしてるとか。確かに顔もスタイルも良い、ヴァンパイア抜きにしてもだ。
千里は仕事の疲れからかそばにあったソファへと沈む。彼のお腹あたりの空いたスペースにポフリと座ると秋人は口を開いた。
「今度の夜会は、出席されるんですか?」
「叔父さんに呼ばれてるから出れないかな…」
「…僕はお母様と行くので、千里お兄ちゃんとは会えないですね…」
ぎゅうっと抱きつく少年の頭をくしゃりと撫でつけた。
その心地よさにオッドアイの双眸を閉じ、されるがままに身を預ける。
何度目かの逢瀬になるが、最初はあまり千里には興味がなかったが…。会う度、次第に千里に対しカナメ達に対するようは同じ気持ちが出てきた。親が子に想うモノである。
情が湧いてきたというか。もちろん、本人には自分の正体のことは言ってない。むしろ言わなくてもいいのではないかとさえ思っている。
誰だってそう思うだろ?今まで存在を知ら無かった父が突然現れ、お前の父親だと言われたら。困惑するだろう。
下手したら憎まれているかもしれない。
この逢瀬ももう少ししたら終わらせるべきだ。この先の道には千里は必要がないから。巻き込んでしまう事だってあり得る。
「秋人、お腹空いた」
(…噛まれるのはいつでも慣れないな)
こうして時折血を求めてくる千里。
首筋に目を赤く光らせた千里の牙が穿たれ、一瞬だけ痛みが走る。カナメが血を吸える年齢になり、定期的に提供してた時以来だろうか。
彼が俺に血を求めるのはこの借り物の躯に流れる血のせいかもしれない。この躯の少年の両親は必要最低限しか精気を与えない。だから、同年代の中では一回り小さく体も弱かった。
借りる代償に俺は自らの血をこの少年に与えた。純血種の血に勝るものはない、例え一滴でもその血にはかなりの力があり、どんなヴァンパイアも虜にしてしまう魔性の魅力があるのだ。
故に、純血種の流血は禁忌とされていた。
同じ純血種でなければ気づかないだろうが、この躯は純血の血の臭いがする。千里もそれに惹かれたのだろう。
「…ありがとう」
「大丈夫です。いつも僕も千里お兄ちゃんから精気もらってますから」
「どうぞ…」と千里から頬にキスをされ、お返しに精気を貰う。
「ありがとうございます…」
(精気を貰うなんて何千年振りかな)
思い出すのは記憶の彼方にある、自ら彼らを手にかけたあの日の夜___。
「…そろそろ寮に戻らないと…。一条さんに怒られるから帰るよ」
「はい、引き留めてごめんなさい」
「…別に、オレが好きで来ただけだから」と千里はそう言うと、もう一度秋人の頭を撫でてコートを片手に屋敷を出て行く。
その背を見送った俺は千里に噛まれた首元に手を当て、そこをなぞるように触れた。手を離した時にはもう傷はない。
「…ありがとう。お前のお陰で千里に会えたよ」
能力を解き放ち、ふっとソファに倒れ込む少年の躯。李土の気配はもうそこにはない。