06.シクラメンを夜に灯して
李土様のお傍にいられれば良かったと何度思ったことか。しかし、後悔しても遅いですね。
私の家系は代々王を排出してきた玖蘭家にお仕えしてます。もちろん私も旦那様方に誠心誠意お仕えし、その事を誇りに思っておりました。
先代当主より、彼らのたった一人のご子息の執事に命じられた時は至上の幸福でした。信頼されていると___色々ありまして、そう思ったのは最初だけでした・・・。
旦那様からはご子息様のお名前は玖蘭李土様と。
当時の李土様は玖蘭家待望の男児として、大層大切にされました。私もその一人でございます。実の子の様にお仕えさせて頂きました。
しかし、笑ってしまうほどにあの方はヴァンパイアらしくはないお人だった。
私のミスを旦那様に言いつけられ暫くの謹慎処分を受けたりや、私が李土様への紅茶をメイドに命じた時はわざとメイドの足を引っ掻けて私の衣服を汚したりと___本当に色々ありましたが今では良い思い出でございます。
あの日々がとても懐かしいです・・・。
「良き日々でした・・・」
李土様一人を残して逝くことだけが、心残りですが悠様達がいらっしゃるから大丈夫でしょう。
(李土様の本当の思いを汲み取ってくださると信じて私は…)
「斎藤さん!!」
消えゆく意識の中、大きく扉が開かれる音と私の名前を呼ぶ声。
「り・・・ど、さ・・・ま・・・?」
「僕は悠です、お兄様は・・・・・・今出かけられてますが、すぐお戻りになられます」
「はる、かさま・・・そっうでした、か・・・また、みなさまと・・・ちゃかい・・・をひらき、たいです、ね」
「はい」と穏やかに微笑む悠。安心したように斎藤は笑い返し、そのまま安らかに眠りに着いた。
長く自分たちに仕えてくれた彼に悠は斎藤の手を己の額に押し当て深くふかく嘆き悲しんだ。