08.浅ましさをくれよ

「初めまして?僕と同じ名前の枢さん」

悠に似た面差しで微笑む目の前の彼。その気配は純血種のそれ。まさか会えるとは思わなかった。彼は寮の入口に寄りかかって僕を待っていたようだった。

寄りかかるのを止めるとこちらに近づいて来る。遥かに似た癖っ気のある髪が風に揺れ、樹里に似た口許はきゅっと閉められている。

「君は・・・どうして此処に」
「僕は叔父様が気になって来たんです。貴方の大切な僕の妹を攫いに来たわけじゃない、興味がないので」

語尾を強めて言えば、面白い程に彼の気配が鋭くなる。たかだか純血種が始祖に敵うはずがないというのに。彼は大切なモノを盗られそうな子供のように怒っている。

思わず笑みが漏れてしまったのはご愛嬌。

「本当は貴方も叔父様の事、薄々分かってるんでしょう。目覚めたあの時、貴方には叔父様の血を喰らったはずだ」
「・・・・・・」

吸血鬼は喰らった相手の血から記憶や想いを視ることが出来るのだ。彼が覚醒した時に叔父様は重症を負ったと聞いた、だからその時に彼の血を取りこんでいると分かった。

そして、その事は図星のようだ。黙り込んだ始祖のヴァンパイア。

「僕はあの人の意志を尊重させたいと思った。だから、お父様とお母様の元に戻ろうとは思いませんでした。

けれど違った___あの人の行く末を歪めた一条麻遠だけは殺したいほどに憎らしい」

力を入れた拳。鋭い爪が手の平を傷つけ、血が滴った。ぽつぽつと血を流しながらカナメは息を付いて自分の心を落ち着かせ・・・。

「これだから純血のヴァンパイアというのは困りますね。大切な存在を想うあまり、我を見失いそうになる」

「・・・それがヴァンパイアというものだ。君は彼を相当気に入ってるんだね・・・今にも誰かを殺しそうだよ」

本当にヴァンパイアという存在は浅ましく愚かな存在だ。

「僕は叔父様の意志を尊重したい、それが他者によって歪められた道筋だとしても・・・出来れば、貴方には邪魔してほしくないですね」

「さあ。どうだろう」

くるりと大切な元に戻るべく身を翻す。カナメはじっとその背を見つめ、見送った。

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