10.裏切りは甘く恋より甘く

「李土様が首尾よく玖蘭の血を手に入れ、復活されるのは時間の問題___その後は枢様に替わり、玖蘭家の当主になって頂くつもりだ。

そうすれば、元老院が確実に力を増す時も間近・・・ただ、あの学園にはハンター共がのさばっている事が唯一の不安要素」

そうして我々、元老院は確固たる地位を固めより吸血鬼社会を管理していくことが出来る。その為にも純血種という存在は不必要である。

純血種同士の力は同等。李土様には矢筒に立って頂き、純血種同士の権力闘争にでもなれば共倒れとなる。さすれば、この世界から純血の君は存在は消滅するだろう。

「何を案じられることがありましょう。李土様が並みの吸血鬼ならいざ知らず」

この男の体にはあの方の比類なき純血の血が流れている。こちら側に付くために対価として要求したものだ。下賎なハンターの長めが。

さも当たり前の如く、李土様の僕の様に振る舞う目の前の彼に一翁は淡々と答えるだけ。

「私の何倍も生きているがあの方は子供なのだ。同時に何を考えておられるか正解が分からない。

何ゆえ、錐生の双子の片割れなどを飼われるのか・・・」

錐生壱縷___閑様が飼っていたハンターの子供。閑様の忘れ形見と言ってあのお方はそれはもう、家族と同等に扱っていた。しかし、仮にもハンター。今は大人しくしているが、いつ気が変わって牙を剥いてくるかは分からない。

「・・・案外、くだらない理由かもしれませんぞ・・・暇だから・・・いや失礼。少なくとも、もう一方の双子の片割れのことは心配無用です一翁」

(何を分かったようなことを・・・あの方は一筋縄ではいかない)


***


「・・・李土様。ご復活を心より、お待ちしておりました」

久しぶりの感覚だ。躯は完全に回復し、玖蘭の始祖の血のお陰か十年前よりも更に力が増している。試しに力を使ってみれば、考えていたよりも数倍以上の威力で部屋の壁が抉れる。

「壱縷、躯の番ご苦労だった。この姿では初めましてだな」

にこりと微笑む李土に壱縷は跪いたまま顔を伏せ上げようとはしない。

「お前はこれからどうするつもりだ?」
「・・・閑様と共に在るため、零の一部になろうと」

それはつまり、ハンター家系に産まれる双子の言い伝えを実行して片割れに血肉を捧げること。

「・・・そうか。今ならまだ機会はあったが、その意志は変わらないようだな」

「はい。李土様もお気を付けて・・・」

出来れば若い者達には生きていて欲しい。とくに目の前の彼なんて、息子と同じくらいの年である。

「今生の別れか・・・さようなら壱縷」

そう言って声をかければ、壱縷は伏せていた顔を上げ嬉しそうに微笑んだ。初めて見た最初で最後の彼の笑顔。

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