11.或る罪人の追憶
「貴様・・・何故だ?」
「お父様、僕はもう決めたんです。これからの事を___そこには貴方達のような欲深い下賎な純血種はいらないと」
コツ、と一歩前へ出る彼はひどく楽しそうに笑っていた。
彼の周囲は血溜まりとなり、その上には見知った屋敷の者達が大勢倒れ伏している。
「・・・若輩者の分際でこの私にっ」
げほっと大量の血を吐き出し、尚も俺の事を睨みつけるのは実の父。俺と殺り合ったせいか体の至る所に怪我をしていた。
一番の致命傷となっているのは俺の持っている対ヴァンパイア武器による腹部の傷である。ハンターの武器は純血種の化け物並みの回復力でさえ遅らせる厄介なもの。
「貴方はまだ動けるようですね・・・まぁいい・・・すぐにお母様の元に送ってあげましょう」
「なにっ!!?アイツを・・・!!殺したのか!!?」
「僕にとっては貴方達は邪魔者でしかない、たとえ・・・血を分けた親子であっても。僕は貴方の企みを知っています。それを僕が利用しても死にかけの貴方には何も言う権利はないだろうに」
目の前の実の息子を手塩にかけて育て、当主に据えることで玖蘭派の結束を強め・・・元老院派閥の者や他を牽制していくつもりだった。
しかし現実は違った。飼い犬に手を噛まれたのだ。
「今日、ここで玖蘭家は一度滅び・・・貴方の派閥だと思われた長子の僕がいなくなることで過激派は散り散りになりますね。
そこから新しい玖蘭家と吸血鬼社会が始まって行く・・・」
「貴様ァ!!裏切者めが!!!」
激しい怒りを発散させたお父様に呼応したかのように彼の僕の狼が現れ、俺と俺の僕へ襲いかかる。喰らいつかれた僕達は灰へと還り、半数以上が一気に減らされる。
だが李土はその事に全然動じてはいない。むしろ、嘲笑うかのように口の端を上げていた。
「さあ、終わりにしましょうお父様・・・」
対ヴァンパイア武器、母の使っていたカトラスを握りしめそれを父へと振りかぶった。
不意に母の死に際の一言が脳裏に過る。『お前は誰だ』と___。母だけは俺の異質さに気が付いていたらしいな。
貴方達の息子、純血種の玖蘭李土は最初っからいない。幻想でしかない。
「俺は秋人だ」