12.壊されるくらいなら泣けばよかった
まだ弟妹達と共に本邸で過ごしていた時のこと。
「樹里、こんなところにいたのか?」
カタン、と扉を開け中に入ると後ろ手で扉を閉める。入った部屋は二間があり、シャワートイレ完備の個室であった。
豪勢な作りの割には質素な家具や調度品しか置かれていない。
そして、ベッドルームの中央に配置されているキングサイズのベッド。ベッドの上の柱部分からは暗幕がぶら下がっている。
俗に言うお姫様ベッドというヤツだ。そこに妹がちょこんと座っていた。
「・・・李土。どうしたの?」
「悠がお前を見かけないと言っていたからな、心配して来たんだよ。お前・・・大丈夫か?最近、なんだか体調が悪そうだけど」
青白い顔をしていつもぼうっとしてるのを見かける。
「なんでもない、ただここのところ寝つけなくて・・・。そのせいで力も不安定になってるだけよ・・・」
「そうか、無理そうなら斎藤に言って薬でも用意するぞ?」
「大丈夫!少し休めば治るから」
「本当か?無理はするな。俺はお前の兄だから、心配なんだ」
そっと労わるように彼女の頭を撫でようと手を伸ばす。パシン、と部屋に何かを叩くような音が響いた。
「・・・ッ・・・樹、り・・・?」
弾かれた手を摩りながら李土は心配そうに彼女の足下に膝を付き、覗き込むようにその表情を伺う。
「・・・・・・もう私を子供扱いしないでよ李土ッ・・・!」
「・・・・・・?」
不安そうに瞳を揺らす樹里。そして自分が何を言おうとしたのか気付き、はっと我に返って俯いてしまう。
「ごめんなさい・・・なんでもないわ。叩いてしまった手は大丈夫?」
そっと兄の両手を取り、その手から流れる血を持っていたハンカチで拭う。弾いた拍子にどうやら自分の爪が彼の手を切ってしまったのだった。
だがその傷も純血種のお陰か塞がり始めている。
「大丈夫だ、それよりもお前が無事なら・・・良い。すまない、僕はお前に対して少し過保護すぎたようだ・・・これだけは分かってくれ。
お母様にも頼まれたし、兄としても樹里を幸せになってほしいと」
「・・・・・・」
「それがちょっと過剰になりすぎてた・・・何かあったら僕に言ってくれれば一番にお前の所に行こう」
手を伸ばして彼女の頭を一撫ですれば李土は穏やかに慈愛の笑みを浮かべ、部屋を出て行った。
(私は・・・・・・)
それ以上先は思い留まらなければならない。樹里はどうすればいいのか分からず、枕を強く抱きしめる。
この気持ちに気づいたのはいつからだろう。二人の兄を同様に好き___その血を喰らいたいほど。
(なんて、最悪な女なのかしらね・・・・・・)