17.はじめまして、さようなら
「何故、お前たちが・・・」
李土の前に立ちはだかるのは唯一の肉親達。悠と樹里は寄り添うように佇んでいる。
「李土お兄様、もう・・・止めてください。僕たちは争う事を望んではいなかったではありませんか」
悠は物悲しげに眉根を寄せてそう言った。純血種が四人___か。純血種はほぼ同等の力を持つ、俺は始祖の血を手に入れているために彼らより能力は上だろうが。
多勢に無勢では勝ち目は見えない。
「拓麻君から、ここでとても沢山の血が流れるかもしれないと聞かされて・・・もしやと思ったらお兄様だった」
樹里は険しい表情をしている。けれど対照的に声音は優しく、俺を自分たちから最初の子を奪った男として憎んでいるのだと思ってた。
「ほう・・・あの裏切者め・・・目にかけてやったものを・・・」
(二人に阻まれてしまえば、成功するだろうか)
「まあ、良い。お前たちを始末すればいいのだから」
僕を使って二人に襲わせる。長い時をかけて俺の純血の血を与えた化け物だ。力もそれなりにあるから、多少の時間稼ぎは出来るだろう。
「「お兄様・・・!」」
俺は二人の間を掻い潜って零と優姫へと能力を発動させた。複数の李土の血肉で造られた牙が彼を襲う。
「優姫・・・純血種には他のヴァンパイアの心をねじ伏せて言いなりにする力があるんだ・・・。果たして、お前は僕に勝てるかな?」
「・・・私の名前・・・呼ぶなっ!!」
かつて樹里が使用していたアルテミスの鎌を振りかぶり、李土の首を狙う。しかしそれは彼の牙によって防がれてしまった。
「化物・・・お前は俺の獲物だ。狩られるモノは狩られるモノらしく、死から逃れるために足掻いてろよ・・・」
「何故僕がお前の獲物なんだ?ああ、お前の片割れに死を与えたからか。だが、お前はそれを喰らって・・・自分の欠片を取り戻したのだろう?」
わざと煽ってやれば尚更、彼は怒りを増幅しブラッディ・ローズの蔓は力を増す。しかし李土を仕留めようとした蔓はアルテミスによって無効果してしまった。
優姫が二人の間に入る形で立ち塞がったからだ。
「下がれ、俺の獲物をとるな・・・!」と強く零は叫んだ。あの化け物は全ての歯車を狂わせ、家族を・・・壱縷を奪ったヤツだから。
「どうして!!零ッ私は・・・!悪い事の塊、そのもののこの人をッ・・・!」
零の言葉に激高した優姫。彼女の怒りはそのままに力となって零の頬を切りつけた。無意識のそれに彼女は思わず怯む。零はそれを見逃さない。
「邪魔だ・・・」
零の攻撃で優姫は遠くへと飛ばされた。一瞬、そっちに気を取られそうになるがあれでも純血種だから。きっと大丈夫だろう。
「僕の小鳥に手荒な真似を・・・。お前は大人しく僕に取りこまれ、力の一部になればいいんだ。
お前が喰い時になるのを待っていたよ・・・閑が種を蒔き、枢がそれを育て・・・僕がそれを刈り取る。お前という存在は、こうして純血種に蹂躙され尽くし、消えるんだ」
(憐れな双子の狩人め・・・)
完璧な力を手に入れる為に、兄弟を喰らわなければならぬとは本当に憐れだ。これも先祖が純血種を喰らった末路___。
「ああ・・・だから俺はお前達、化物を皆殺しにする」
「李土も錐生君も、もう止めて!!」
僕の力で動けずにいる樹里はそう叫んだ。悠はただ悲しげに困ったように微笑んで、こちらのやり取りを見ているだけだ。もしかしたら、俺がずっと昔から成そうとしたことに気づいたのかもしれない。
(樹里、俺が望んでいたことだ・・・)
構わずに李土は零の背後からメタモルフォーゼの力を使った。
だが、零のブラッディ・ローズの大量の蔓が李土を襲う。能力を使ってそれを避けるが体は建物に叩きつけられ、その拍子に月の寮の壁が崩れてしまった。瓦礫の山が出来、建物の壁に空いた大きな穴。
その部屋は丁度、千里達がいる部屋であった。
「父さん・・・」
「せん、り・・・・・・」
不意に絡み合う二つの視線。千里は何も言わず、遠矢の娘を抱き上げると俺から逃げるように背を向けて出て行った。
「・・・それでいいさ」
そうして李土は笑顔を携え、ゆっくりと目を閉じる。