04.紺に沈みゆく
「疲れたー・・・変な仕事させられるし・・・」
ボフっとソファに倒れ込む。そのままクッションを抱きかかえ莉摩はため息を付いた。うとうとと襲う眠気に何とか耐えようとする。
(支葵は実家に帰ったまま戻ってこないし、仕事場にも現れないし・・・)
頬を膨らませ心の中で彼へ悪態をつく。姿は見せないが、マネージャー曰く単独で仕事はこなしているとのこと。
何か事情があって姿を見せられないのか。支葵家の本邸に行ったきり音沙汰ない。千里の母は元女優で、息子と同じく無気力な方だ。
まだ彼女より幾分か活動的な千里が彼女の世話を焼いていた。
莉摩が考え事をしていた時、月の寮で働くメイドが彼女の肩に振れる___。
「お帰りなさいませ遠矢様。実は遠矢様をお待ちしていらっしゃる方が・・・・・・」と言ったのだ。
藍堂さんじゃないんだし、わざわざ月の寮まで私に用がある者なんていないはず。
「んー、今は・・・無理・・・」
とにかく疲れてるのだ。ただひたすら疲れを取る為に仮眠したい。そう言って来客に帰ってもらおうとメイドに伝える。
「ただいま莉摩」
久々の彼の声に莉摩は眠りかけた意識を覚醒させ、声のした方へ振り向く。振り向いた先には階段の手すりに寄りかかった見慣れた姿があった。
「し、き・・・今まで何してたの?」
「ちょ・・・ちょっとね」
(バレないか・・・?)
千里の躯を借りた李土は心の中で呟く。
事前に彼女は息子と付き合いの長い友人であることは聞かされていたし。友人達の呼び方や千里の仕草なども拓麻から聞いていた。
「用があるから、ちょっと出かけてくる。すぐ戻るから・・・」
そう言って拓麻と共に月の寮を後にしようとした時___「ねぇ、支葵」と彼女に腕を掴まれた。
「その目、どうしたの?前までそんな色じゃなかったでしょ」
「・・・・・・」
それらしい答えに悩みに悩んだ末、静かに拓麻へと視線を送る。
「りどッ・・・支葵の用事を済ませないといけないから行くよ」
(危ない。つい、李土様と呼びかけるとこだった・・・)
「また後で・・・!」と二人は急いで莉摩から逃げた。残された莉摩は彼らの背を訝し気に見るしかない。