10.ひび割れてカレワラ
渡された小瓶に入った血を飲み覗き見た全ては、見なければ良かったと後悔する。どれも悲しくも寂しい血塗られた記憶だ。
無意識に流れた涙は己のモノか、あの人のモノか。俺と母を勝手に置いて、勝手にどっか行ったのは嫌いだからじゃないことは分かったけど。納得はしないよ。
「千里、初めまして。僕は君の従兄弟のカナメだ」
血を渡した目の前の彼はそう言った。その気配は純血で従兄妹の本当の兄。自分とは義兄弟と言っても差し支えないかもしれないや。
純血種って面倒臭いからこんな義兄は嫌だけど。
「そのカナメサマが何の用?忙しいんだけど」
「ただ・・・会ってみたかったから。伯父様の息子の君を」
にこりと笑ってはいるが千里は警戒する。
「母さんは俺と父さんがソックリだって言うんだ。あんたも俺を通して父さんを見てるんじゃない?気持ち悪いからやめて欲しい」
もう重ねられるのは懲り懲りだった。父とは直接話したことなんてないし、あんな事をしといて。
「そう思うのは当然だ、君の言う通り・・・僕は君を通して伯父様を見てるのかもしれない。
ただ、僕には彼の武器をどうすることも出来ないから君に託しに来た。これをどう扱おうが千里の自由だよ」
布に包まれたそれを千里は押し付けられる。押し返そうとしたがそれは適わなかった。
「お願いだ・・・純血種としての僕の顔を立てて」
今にも泣きそうな辛い表情をしていたのだ。純血種が涙を感情を他者に見せることは滅多にない。それも、下級のヴァンパイアに。
この人はきっと___。
「俺はこんなものいらない、ハンター協会に送るから」
そう言えば彼は静かに頷いて分身だったのかコウモリとなり姿は消え去る。
だが、千里は腕に抱えるその包みを生涯手放すことはない。