07.指先をすり抜けるエメラルド
俺は夜会に参加するために一から礼儀作法を学んだ。そして上に立つ者としての振る舞いを。麻弥から雇われたという講師が玖蘭の屋敷へといきなり来たのには皆驚いた。
もちろん講師もヴァンパイアだ。何かあってはいけないからと恋が常に傍にいてくれてありがたい。その講師、なかなかに手厳しく一つ間違えると長々と説教が続く。
そうして講師からもお墨付きを貰い、無事に夜会への参加を果たした李土。
己が微妙な立ち位置なのは理解している。彼らは戸惑う様子もなく跪いたのには唖然としてしまう。元ヴァンパイアとはいえ、ただの人間にかしずいているのだから。
「元でも大伯父様は玖蘭家の直系の長子だから・・・ヴァンパイアでも人間でも、彼らにとっては関係ないの」
隣にいる愛は肩を竦めてそうは言うが・・・。
「文月さんお久しぶりです。今日はご招待、ありがとうございます」
「愛様も変わらずご機嫌麗しく・・・李土様も___初めまして、今宵はご参加くださりありがとうございます。私は夜会を主催をする藍堂文月です。
カナメ様にはとてもお世話になりました」
「お前が・・・カナメの・・・」
「はい」
緩やかなウェーブのかかった金の髪に空色の瞳。幼くも見えるその容姿とは打って変わって落ち着いた雰囲気の青年だ。李土に会えたことに喜んではにかむ姿は好感が持てた。そして"藍堂"と"カナメ"という言葉で、カナメが当主代行していた時に手伝っていた者なのだと瞬時に分かった。
「藍堂家は治療薬を発明した優秀な家系だと聞いてるよ」
「恐れ多いのですが・・・ありがとうございます。そう言って頂けると父も喜びます・・・」
「文月さんってカナメ伯父様と仕事してる時いつも怒られてばっかりだったの。あの時はとても楽しかったわ」
「愛様・・・それ、は」
思い出し笑いを浮かべる愛。それに対して文月はバツの悪い顔をしている。
「そうなんだ、文月・・・まだ僕は現状をよくは理解していない。もし良かったら、今後助けになってもらってもいいだろうか・・・?」
「・・・!はい、嬉しいです!」
はっきりとした承諾の返事に、今まで無表情だった李土は表情を崩して微笑む。至近距離で見てしまった文月は蕩けるように恍惚としてしまい、愛はこほんと咳をすれば我に返って頭を下げて引き下がった。
(大伯父様は少し自分のことを分かって欲しい)
私は跳ね返りで純血種らしくないってよく言われる。自分自身、純血ってどういうものなのかも未だに深いところまでは知らないけど。
初めて見た時から大伯父様は"そうなんだ"って___。
カナメ伯父様もきっと同じことを感じてたはずだ。だから、同じ轍は踏まないようにって楔から解き放って自由にしたんだと思う。私だってその立場ならそうするもの。
「大伯父様、私と恋が一緒にいるからね」