「はぁはぁはぁ…はぁはぁっいったい、なんだっ…ってんだ……はぁはぁ」
全速力で荷物といっても僅かな衣服と小銭程度を持ち、彼女の元へ向かっていた。
盗みをしていた際にぶつかったと思ったら捕まえられるし。
捕まってダメだと覚悟したら、なぜか根掘り葉掘り聞かれるし。
聞かれたら今度は謝罪巡業とかふざけた事言いやがるし…。
「ちっ…ガサツ女が。俺の母親のほうがもう少し女らしかったぞ」
思い浮かべるのは最早ほとんど顔を覚えていない母。
父が死に、育て切れなかった自分をスラム街に捨てた女。
仕方のないことだ、とは割り切ることはできねぇ。・
それだけの憎しみがあった。
そして、路地裏の道を右手に曲がったときだった。
どんっと何かにぶつかり咄嗟に受身を取れることのできなかった俺はコンクリートの地面に叩きつけられた。
鈍痛が体を襲う。
「いってぇ…悪ぃな、前見てなかった…」
「あぁ?ぶつかっといて何だその態度…ってお前は!アキラ・サザールじゃねーか!
ハッ良いモンが見つかったぜ」
(やっべぇえ、コイツ…)
目の前にいるのはここスラム街の元締めの男、ヴェルニコフ。
そして俺は何度もコイツに仲間になれと脅されたことがある。
そのたびに逃げているのだが。
相手は5人。
自分を囲むようにしてにやにやと笑う彼ら。
逃げ切れるだろうか。
「おい、聞いてんのか?お前の能力を買ってやってんだ。
その力さえあれば、どんな物も直せる。
俺達は今、自治政府とヤリあってる。
武器も安くはねぇ…どうだ?」
この男は自分のことしか考えていないのか。
どこまでも執念深い男である。
アキラは当たり前のように首を横に振った。
「俺の能力はそんなもんのためには使わねぇよ。
それにあんた等の仲間になるなんてもっとゴメンってぇ!!」
ヴェルニコフが彼の頬を殴った。
殴られたアキラはというと、頬を押さえ男を睨む。
その態度さえヴェルニコフの癇に障る。
「躾がなってねぇようだな!?
ハッ…ちょうど良い、お前らコイツを連れて行け」
「離せよ!!離せって言ってるだろ!!!?」
暴れる彼を押さえつけ、手下の男達はヴェルニコフと共にその場を去ったのだった。