「くっ…ちっくしょ、う…!」
口元から血を垂らし、アキラは疲れきった体を床に投げ出していた。
顔は何度も殴られたせいで痣が出来、どす黒く変色して腫れ。
水攻めによって髪はビショビショに濡れて息は絶え絶えだった。
両の手は手錠で拘束され、足は縄で厳重に縛られている。
脱出の手立てはあるが___周りの監視が厳しすぎて中々行うことができないのだ。
あいつ等はあくまで俺の能力を直すものだと、思っている。
「ん?もう限界なのか?オラ、お前が仲間になるって言えばこんな苦しみから解放されんだぜ」
ぎり、とアキラの頭を踏みつけるヴェルニコフが恨めしい。
下唇を噛み締め、苛々を何とか我慢する。
喧嘩っ早い彼にとってその行為は限界ギリギリの行為。
「誰っがお前みてー、な…下衆ヤローに…がはっ!!」
腹を蹴られた。
ごほごほと咳き込み、彼の口からは大量の血が吐き出される。
もう何度同じところをやられたか分からない。
内臓もイッてるかもな。
「きったねーな。その顔、イイねぇ…アイツを思い出すぜ」
(アイツ…?)
ヴェルニコフの言う"アイツ"とは誰のことだろうか。
「お前の母親、中々に美人で良かったぜ?
最後の最後までお前のことを心配していたな」
「は、はお…やだとっ?」
「あぁーお前は自分は捨てられたと思ってんのか?
自分は悲運で可愛そうな子供だと、笑えるじゃねーか。
お前の母親は生活が苦しくて俺達に金を借りてたんだよ」
金利は5倍でな。
男は饒舌に語りだした。
アキラの母は父親の死後、一人で子育てすることは困難だった。
金もない、食料も水もない。
そして女である彼女には中々仕事が見つからなかったと。
そうして行き着いたこの国。
俺たちに金を借り、生活をしていた。
だが、女は一向に返す素振りもなくてな。
毎日のように取りたてに行ったがあいつは金が無いの一点張りだ。
借りた以上は返すのが流儀だろう?
そこでお前が能力者だと分かり、お前を借金のカタにするといえば女は泣きながらそれだけは勘弁してくれと言った。
「挙句の果てにアイツはお前を俺達の目から隠すようにスラム街に捨てたようだが。
それも最早意味のないことだ、目の前にいるんだからな」
「母さん、を…どうしやがった!!」
「母親の心配か?安心しろ、返す術が無いのだからその命で帳消しにしてやった。
まぁ、その前に少し楽しませてもらったがな。なかなかに良かった」
その言葉の意味することは____人として許せないものである。
今まで自分を捨てた、と思っていた母親が、まさかそんな目にあっていたとは…。
「そん、なこと…言ったって、俺には関係ねぇよ…。
記憶にねぇ人間の事なんて…どうでも良い!!」
「ほぉ、ずいぶんと親不幸な子供だな」
ニヤニヤと笑うヴェルニコフ。
「どうだ、仲間になる気になったか?」