愛の重さを知れ

「びぃまいこーち!!ヴぃクトぉー・・・ル・・・」
「ゆ、ゆう・・・り・・・?」

常に俺は孤独だった。誰も"俺"のことを知らない、誰も"俺"自身を見ない。彼らは"ヴィクトル・ニキフォロフ"という存在しか認めないのだ。心が張り裂けそうなくらいにもう限界だった。

"俺"は必要とされない存在なのだと___。己の行く道に迷いが生じていた。

氷のように冷たい世界に長らく独りで居続けた自分は二度と心からスケートを楽しむことはできないだろう。俺の家族はマッカチンだけ、選手生活後はどこかで共に暮らすのもいいかもしれない。

そう考えていた頃だ・・・。"彼"と出会ったのは。

今年のグランプリファイナル終了後に行われた、大勢の選手や大会関係者が参加するバンケット。

ユウリ・カツキ。正直、彼のことはあまり知らなかった。

同じグランプリファイナルに出場した日本代表の選手というだけしか認識していない。けれど、大会後に近くでこちらを見ていた彼はてっきり俺と記念撮影がしたいと思って声をかけたというのに素っ気ない返事だった。

それが気がかりでバンケットで彼のコーチと彼が来た時、自然と目で追う。
コーチを置いて独り、会場の隅でシャンパンを煽る彼。気になって声をかけようと一歩足を踏み出す。

しかし、シャンパンで酔った彼は顔を赤らめ息苦しいのかしゅるりとネクタイを外す。

俺はじっとそれに見入ってしまう。彼から溢れる色気、エロス___普段の彼からは考えられない一面に俺はゾクゾクする。

彼はまるで世の男から愛を乞われる美しい女のように選手たちを引き込み、艶のあるダンスを始めた。彼らはユウリという妖艶な女に惹かれ、競ってダンスを魅せ付ける。

彼の本当のエロスは此処に居る全て、世界中誰しも知り得ることはない。
世の男から愛を乞われる美女から一心に愛を求められた唯一の"俺"だけだ。

"俺"を初めて必要としてくれた彼になら俺の人生分の愛を捧げることが出来るだろう。

彼となら、またスケートを___。

「ユウリ!今日から俺はお前のコーチになる、そしてグランプリファイナルで優勝させるぞ」