屈折した光は、時に狂おしい闇となる。

 「主、驚きとは良いモノだろう?」と笑う彼に私は困ったように笑う。執務をしていたら彼に背後から驚かせられたのだ。鶴丸国永の白すぎる衣服の裾を引っ張り、隣に座らせる。

 この時期は寒いけど、庭園の雪景色は美しい。

 温かい茶を啜り白い息を吐きながら縁側から外を眺める。

「誰もいない本丸。いなくなったことは寂しいけれど、これで良かったのかもしれないと思うの」
「それはあの者を許すということか?主と共に長くいた初期刀でさえ行ってしまったんだぞ」

「それは個々が決めることで私が強制するものではないよ。人間もそう、性格の不一致や思うところがあれば縁を切ることもある。例え、呪符で意識を縛られていたのだとしてもそれを抗おうとしなければ心のどこかでそういう気持ちがあったはず。

抗う術はいくらでもあるし、彼らと私は縁で繋がっているから何かあればすぐに分かるもの」

 主は今でこそ割り切っているが当初はふさぎ込んでいた。しかし、鶴丸国永は彼らが行ってしまったことを心から喜んだ。こうして俺と彼女はこの本丸で二人きりだから。

 政府は一度に四十三振りの鶴丸国永以外の全刀剣を失ったことに同情し、暫くの審神者の業務を停止させた。俺自身も出陣は免除されているしな。暇を見つけては主への悪戯に勤しんだ。

 彼らの中で俺は、比較的新しく顕現された刀だ。だから彼らの主との深い繋がりには勝てないとさえ思っていた。棚からぼた餅というべきか、ちょうど野心を持つ見習いがやって来て俺以外の刀剣男士を呪符で自分のものにした。

 まぁ、思惑の一致した俺が手伝ったのもあるが。流石は練度の高い刀。主に気付かれずに事を成すことは苦労したさな。
 清廉潔白な魂を持つ主。あれを独り占めにするのはこの本霊、鶴丸国永だけで良い。

「鶴丸、食材の買い出しに町へ行こう」

「おう。どこまでも着いて行くぜ!ついでに俺の悪戯用グ「それはだめ」・・・わかった」

 そうして二人は仕度を済ませ、ゲートを潜って消える。