彼女の演技を見た時は神の祝福を受けたかのように幸福な気持ちになった。そして息をすることも忘れその演技が終わるまで俺は彼女から目を離す事は出来ない。会場の誰もが一体となり女神の舞いを見守った。
身軽なその身体能力を持って高難易度の技を軽々とこなし、時折見せる慈母の様な慈しむ表情かお。本当に心からスケートが好きなのだと感じる。演技が終われば彼女へ贈られる惜しみない大喝采。それから、俺は彼女のファンになり可能な限り彼女について調べた。
日本代表の勝生由利、4つ下の若手選手だ。
「だから俺は由利のコーチをしてみたいと思ったんだ!」
にっこりと頬を赤く染めてこちらに近づく男。酒に酔ってることを抜きにしても彼はパーソナルスペースが近い。
「えぇと・・・ヴィクトル?それは分かったから、近いから!!」
両手で防御し、離れるように至近距離の彼の胸を押す。
「ごめんごめん、由利。俺は由利のファンなんだ、前回の演技を見て決心が付いた。俺は由利のコーチがやりたい、きっと君の演技をより高みに行かせることが出来るって」
「・・・・・・」
最初は実家にあのヴィクトル・ニキフォロフが訪問してきたことに驚いた。私は女で、性別が違うために大会では彼と関わることはあまりないから。私が一方的にヴィクトルのことを知ってると思ってた。しかし、彼は私がノービス時代からファンだったと言っていた。
若手時代からヴィクトル・ニキフォロフは天才的な才能で負けることなく、勝ち上がった選手。最近は大会五連覇を成し遂げる偉業も達成したばかりだ。
数多くのファンがおり、私もそんな中の一人。そしてヴィクトルはコーチをしたいと言った。昔なら憧れの彼からの申し出を即快諾しただろう。
しかし、最近は調子が悪く思ったような結果を残すことができなくなったし。正直、引退をしてプロに転向も考えてた。
「ヴィクトル、ありがたいんだけど・・・「受けてくれるのかい?由利ー、これからよろしく!」は?えっちょ、ヴィクトル!!?そんなこと一言も「早速、ヤコフに今シーズンは休業すること、伝えなきゃ!」」
こちらの話を聞く気は一切ないらしい。あれよあれよと話が進んでしまうこととなる。
ちなみに何も伝えずに日本に来てしまったために、ヤコフは大層怒っていた。由利は観念したように俺のコーチ就任を承諾してくれたし、これから楽しみだ。
(・・・引退なんてさせないよ由利)