「すみません芳村さん…」
「どうしたんだい?カネキくん」
「いや、あの……」と言葉を濁す彼の視線の先。彼が何を言おうとしているかはこの場にいる者全てが分かっている。
「彼は玖蘭君だよ。グールではないけれど、ずっとここあんていくの常連さんだ」
「そうなんですか…?」
窓際の席でコーヒーを片手に本を読みふける青年。年齢は分からないけど、二十代のようにも感じるが十代に見えなくもない。
一番気になったのはその容姿である。
今まで見たことないくらいの美しさだ。テレビで見る芸能人も霞むくらいの。無表情で感情の無い、まるで人形の様。
その両目で日の光で輝く、赤と青の宝石。
一度見てしまえば視線が逸らすことができない。幸い、相手側は自分には気づいてなくてよかった。
「詳しくは分からないけど彼には色々事情があってね。ウタ君と一緒にいるんだ」
「芳村さん、それは語弊がある」
「うわ!!?」
突然背後から声がして金木が驚いて椅子から落ちそうになった。襲ってくる衝撃に思わず目を瞑るが、時間が経っても襲ってこない。
ゆっくりと目を開ければ。
「わっうぁあああ!!!ごめんなさい!!」
倒れそうになった金木を話題に上った張本人が支えていたのだ。目の前に差し迫る綺麗な顔に顔を赤らめ慌てて彼から離れる。
「…?変な奴だな、聞きたいことがあるなら直接僕へ聞け金木研」
「え、どうして僕の名前を…」
「馬鹿ウタに聞いた。うざったいくらいにお前の話題ばかり聞かされれば、さすがに覚えるさ」
「何かすみません」と自分は悪くないけど悪いような気がしてきて謝罪した。
「なんでお前が謝るんだ?悪いのは馬鹿ウタなのに…」
あのウタさんのことを馬鹿って…すごい人だ。
「金木研、お前は元人間らしいな」
すんっと彼から香る微かな血の香りに人間の臭いがするし。彼から放たれる気配も人間のそれだ。
「はい…いろいろあってこうなっちゃったんですけど…」
「そうか…お前の血から人間の臭いがしたから」
「玖蘭君、味見はだめだよ。ウタ君に叱られるだろう?」
「馬鹿ウタの話はするな。そもそも僕は血が嫌いだ」
芳村の言葉で、興味を失ったのか彼はつんっとそっぽ向き自分の席へと戻って行った。
「芳村さん、ウタさんのこと嫌いみたいですけど…?」
「嫌いなほど好きって言うじゃないか。ウタ君は彼のことが大好きでね…玖蘭君に何かあれば…。まぁ、カネキ君も気を付けなさい」
何かあったら一体何があるんだ…?
すごく不安になる金木だった。