×李土成主A

「ねーぇ李土ちゃん、きみいっつも仏頂面でつまんない」

制作中のマスクを傍らに置き、椅子ごとくるりと回転してこちらを見るウタ。その視線に映るのはソファでうつ伏せになり、本を読み漁る年齢不詳の青年。

話しかける彼の言葉を無視して李土は本を読みふける。

関心を持ってくれない彼に対し、ウタは心底不満げに口を尖らせた。

「ひどいな〜無視しないでよ李土ちゃん」

「……」

パタンと本を閉じるとテーブルに投げ置く。はぁ、と息をついて彼は体制を変えて座りなおした。こういう時のアイツは厄介だからだ。

あまりに執拗で、邪険にすれば逆に牙を剥いて来るし。その言葉通り牙を剥くのだ。

ウタはモノづくりが好きで細かく繊細な作業を得意としてるくせに、"食事"の時はそうじゃない。

「ぼくお腹減っちゃったからね?」

「ハァ……毎回、お前の餌にされる僕のことも考えろ馬鹿ウタ」
「いいじゃん、きみって僕たちグールより早く再生するんだし。痛覚もそんなにないでしょ」

可愛くおねだりしても無駄だ。何故かずっと、初めて出会った時から一緒に着いて来る腐れ縁?のコイツにイラつきながらも仕方なく、李土は自らの袖を捲ると右腕の肘を左手の鋭い爪で切断する。多少痛みはするがそこまでじゃない。

問題なのは流血だ。噴水のごとく大量の血を噴き出すから毎回グロい光景が目の前に広がる。

切断した己の腕をウタへと投げつけ、自分は貧血気味になりながらも部屋に常備しているタオルで止血。

「あとでぼくの血をあげるから」

彼の言葉に、ギラリと李土の両の色違いの瞳は赤く輝く。こればかりは仕方ない。ヴァンパイアの性だから。

そして部屋を汚さない為と心の中で言い訳をして、気持ち悪い咀嚼音をバックに俺は浴室へと逃げた。

誰だって自分の体の一部が喰われる光景なんて見たくないだろう。