「いらっしゃいカネキくん」と、この店の主であるウタが快く出迎えてくれた。
「ウタさん、こんにちは」
笑顔でカネキは挨拶する。彼は作業中だったようだ。作りかけのマスクが机に置かれてた。作業の邪魔をしてしまったかな。
「あれ…珍しいですね。李土さんが寝てるなんて」
ウタが向かう机の後ろに配置されているソファ。そこの主は穏やかな寝顔で眠りについてた。
「ここは彼のお気に入りだからね。どうしてか、いつもここで寝るんだ」
普段だと少しの音でも目覚める李土が唯一、安心して眠る場所。マスクを造るには大掛かりな作業もあるし、かなりうるさい。
それでも勘が鋭い彼は目覚めないのだ。
「僕がいるからっていうのも理由かな」
「え?」
「僕が拾った当初は野良猫みたいで、警戒心が強かったんだ」
(たしかに…李土さん…猫っぽい)
「大変そうですね…」
プライドの高い彼は何よりも侮辱を嫌う。たまたま前に見かけた時は、その辺にいたグールに喧嘩を売られ…狩りを楽しむ獰猛な獣のようだったし。
「手はかかるけど、僕の可愛い猫だよ」
「……」
芳村さんが言ってたのってこれのことかな……。
満面の笑みを浮かべて怖い事を言うウタさんに冷や汗が額から頬へ伝う。
「僕がお前の飼い猫だと…馬鹿にするな馬鹿ウタ」
「冗談だよ〜李土君」
(李土さん、すごい…)
どうやら寝たフリをして盗み聞きしていたらしい。機嫌悪そうに眉間にシワを寄せ李土さんは、ウタさんの頭を鷲掴みしてた。
そして、ウタの首筋に顔を近づけると「お腹が減った」と呟く。
そんな彼にウタはクスっと微笑んだ。
「カネキ君ごめん…」
「大丈夫です!邪魔してしまって、また明日来ますッ」
「あっ言っちゃった…可愛いねカネキ君」
ソウイウ関係だと誤解しちゃったかな、と楽しげに笑う彼に俺はため息を付くしかない。
「お前が普段からそんな態度だからだろう…。僕は色事に興味ないからな」
「やだなぁ、僕も李土君とは勘弁!性欲強そうだし、絶倫でしょ?」
「おまっえ、僕が…ぜ、ぜつ…だと!!?」
勝手な事、さらには恥ずかしい事をさらりと言ってしまうウタ。その発言に李土は顔を真っ赤にする。そして更にウタは楽しくなり、一日中彼を弄り倒すのだった。