×李土成主C

「腕一本もらえれば良い。安い物だろう?捜査官」

「これは、我々が捕獲したグールだ」

易々と譲るわけがない、とヤツはクインケを構えてこちらへ臨戦態勢に入る。一方、俺は捜査官には構わず足下で蹲っているグールへ視線を送っていた。

「ほう、僕はお前たちを襲わないというのに。馬鹿CCGが…」

しかし、あのクインケとかいう武器は対ヴァンパイア武器と同等の力があるらしいな。一度、篠原だかの特等捜査官の相手をした時の怪我はヴァンパイアの治癒能力を削がれた上に治るまで数日かかった。

(レート外のヴァンピール…グールを喰らう詳細不明の人物、か…)

人間は邪魔する者以外は襲わず、グールのみを喰らう化け物。それも、グールのように肉を喰らうのではなく血のみを食すとのこと。

過去発見されたアイツが襲ったグールは全て、血液が全て抜き取られていた。

グールのように人間離れをした運動神経を持ち、グールとは別の異能を使う存在。そして、それを目の前にすればたちまち洗脳されたかのように無意識に従いそうになるのだ。アイツから発せられる声は麻薬のように体を支配してしまうらしい。

現に今だってアイツを目の前にして、油断をすれば意識を奪われそうになる。

「亜門さん!!ここは一度退きましょう!ヴァンピールをこの人数で相手にするのは危険すぎますッ!!!」

「お前は篠原?ほどじゃないな。出直して来いはなたれ小僧」

李土は能力を使って自らの体の一部を分解させ、分身を作りだす。「行け」とだけ言い放てば、黒い大きな狼へと変化した分身は捜査官たちへと襲いかかった。

「逃げるのか!ヴァンピール!!!」

「僕は無駄な争いには参加しない主義だからな、はなたれ捜査官」

「おい!!!よせ、ヴァンピール!!!!!」

つんざくような叫びと共にグールの腕を引きちぎり、噴き出す血飛沫。口元に着いたそれをペロリと舐め、手に入れた腕を麻袋へ放り投げた李土はそのまま廃墟ビルへと走り去って行った。

そうして、同時に消え去った彼の分身。残されたのは瀕死の状態のグールと捜査官のみである。