虹の色を決めておこうね
傷つけたかったわけじゃない。
ただ、腹が立ってしまったと言えばそれまでなのだが。間違いなく目の前に佇む彼女――なまえは俯いて涙を零している。
普段はこちらの意見など意に介さないとでも言うような態度で、キャンキャンと噛み付いてくる。が、こうしおらしくなってしまうと復活までが長い。
(さて、どうしようか)
ヒックヒックと止まらない嗚咽を上げながら、視線を下に落とし続けている。
きっかけは些細なことでしかなくて、ありふれたものだった。俺の仕事が忙しくなって、海外と日本を往復して飛び回る生活。国内にいても分刻みで管理されているスケジュールの中、なまえとの時間が十分に取れるはずもない。
もっと気にかけてやるべきだったと思う。何年も付き合っていくうちに、なまえは忙しいのをわかってくれる、いつだっていい子に待っていると甘えすぎていた。
しかし、彼女にも限界はあったようだ。
泉って本当に仕事大好きだよね、彼女よりもそんなに好きなの?と呟いたなまえ。そこから始まったのは仕事を優先する俺に対しての不満。
きっと寂しかったのだと思う。
受け止めてやればよかったのに、詰まる仕事にリスケが重なったりとトラブルが続いていたこともあり、つい、言い返してしまった。
「……泣きたいのはこっちだし。あんたに泣かれても困るんだけどぉ?」
「ひぐっ……うるっ、さい、」
依然として彼女は涙を零すばかり。こんな状況になっても、俺は可愛げのない言葉しか紡ぐことが出来ない。なんて声をかけたらいいかはわかっているのに、素直に声にすることが、こんなにも難しい。
「泉が忙しいのはわかってるもん、仕事が大切なのもわかってるよ」
「じゃあわがまま言わないで。俺だって時間作れるなら作りたいと思ってるんだから」
これは本心である。好きだから付き合い続けている訳だし、なによりなまえと笑い合う時間は、俺にとっても本当に癒しだった。
「わかってるけど……ただ寂しいのを分かって欲しかった、だけなの」
少し開いていた俺との距離を縮めるように、彼女がたっとこちらに駆け寄ってくる。伸ばされた腕はそのまま俺の背中に回され、ぎゅうと抱き締められる。素直になれなくてごめんなさい、と謝罪する彼女の頭を撫でる。
目の前の俺より幾分か小さい体躯が愛おしい。さらさらと髪を解くように、ちいさい後頭部に触れた。
「最初からそう言いなよぉ。……本当、あんたはかわいいね」
ぽつりと呟くと、ゆるりと彼女が頭をあげる。そのまま、視線がぶつかる。
その表情はにやにやと、なんとも癇に障る笑顔を称えている。
「……泉もたまには素直じゃん」
私のこと大好きなくせに!とちょっかいを出してくる姿は、先程まで大泣きして萎れていたとは到底思えなかった。でも、なまえは泣いているよりもこういう姿の方が似合っていると思う。昔から変わらないそういう姿を好きになったから。
とはいえ俺がからかわれる側に回っている今の状況にはなんとも腹が立ったから、脇腹をつついてやった。