レイの散歩に出かけて戻った私を出迎えたのは、夕飯を作り終えてリビングのソファでテレビを見ながら私を待っていた理人くんだった
「ただいま‥10分で帰ってこれなくてごめん‥」
家を出てボーっとしながら散歩した結果10分で帰るからといったもののその時間はゆうに超えていた。
「おかえり、凛音がちゃんと帰ってきてよかったよ。」
すごく心配したんだぞと抱きついて、そしてよしよしと頭を撫でられている
「‥理人くんは私に彼氏とか‥それこそ理人くんに好きな人ができる前にそのシスコンな態度を少し控えたほうがいいと思う」
「‥‥‥え、なに、もしかしてえ、凛音、好きな人、でき‥え、だ、誰‥?」
そう紡ぐように声にならない言葉を口にする理人くんは顔面蒼白という言葉が適切だろう。あからさまにショックを受けすぎである
「いや好きな人はまだいないから。落ち着いて‥私がいいたいのはそうじゃなくて‥
女の子を口説き落とすような行動を私にするのは今後はやめてほしい。顔がいい人にそんなことをされて、それがいくら兄でも恥ずかしさや照れはあるから‥」
そういうと理人くんは暗かった表情を一転してニコニコとした笑顔になって何がそこまで嬉しかったのかは分からないがテンションも上がっていて、
これからは気をつけるとはいってくれたがシスコンをなんとかする気はないらしい
相変わらずのシスコンを貫き通した理人くんは、明日早いからと一緒に夕飯をとった後自分の家へと帰っていった
私も明日また学校かと思い布団へと向かう。物語が始まった今、明日はどうしようかと考えながらウトウトと眠りについた
―――
翌日、寝坊して気分が乗らずのんびりと登校した結果朝のHRの時間ギリギリで、そんな私の視界に見えたのは空席の私の席と新一くんの席でやはりこれが現実なのかと思い知らされた
朝のHRを終えてふと顔を上げれば蘭ちゃんがなにかいいたそうにこちらを見て向かってくるのが見えたので新一くんのことかなと予想はする
何を聞かれるか相談されるかはわからないが、幼児化したこと以外は素直に答えておこう。必要であれば矛盾のない程度の嘘は付くしかあるまい
「‥凛音ちゃんは、昨日どうして新一の家にいたの?」
「昨日散歩してたんだけど、突然雨降ってきたじゃない?それで雨宿りしてたらちょうどコナンくんが通りかかって‥でもコナンくんは傘持ってなくてひどい雨だったし。
送っていこうかってお話して場所を聞いたら阿笠博士の家って言って確か新一の家のお隣だったなとおもって‥
それで博士の家にいって呼び鈴押したくらいに新一くんが通りかかって‥、コナンくんもホームズ好きらしくて新一くんの家に行くことになったのよね。新一くんはすぐどこかいっちゃったんだけど‥」
「そっか。ありがとう凛音ちゃん。それとコナンくんが凛音ちゃんとまた会いたいっていってたからよかったら今日うちこない?」
「嬉しいけど、今日はちょっと‥‥明日ならいけるかな!」
「じゃあ明日来てね。」
「うん、お誘いありがとう」
―――
蘭ちゃんの誘いを断ったが特別になにか予定なんてものはなかった。コナンくんが会いたいと言ってくれたのは素直に嬉しい。コナンくんは可愛いし‥
しかしそれ以上に無理のない嘘をつくのに良心が痛む。そもそもが嘘つきであるというのは否めないが、すでに物語を知っているからこそどうしようもない辛い現実も辛いのだ
気分転換に趣味の生け花でもしようかと花屋さんへと向かう。華道教室に通っているわけではなく親戚の知り合いに少々教えてもらっている。しかしそれでも決まった型、いわゆる流派はない。
なんとなくきれいだなと思ったお花を数本飾るだけのもので、それでも花の見方や花器の扱いかたなんかは知っているしあとは自分の感性で生け込む程度だ
「いらっしゃいませ。」
「こんにちはー。いつもの生け花用のお花で、季節のお花4種類、枝もの2種類お願いします」
「いつもありがとうございます。今日も自分で選ばれます?」
「できればそうしたいです。いいですか?」
「もちろんです。こちらへどうぞ」
店の奥へと案内され最初に言ったとおりの物を選ぶ、しかし他にもつい目移りしてこのお花もいいなと思い始めたら、それは止まらず当初の予定よりも多い買い物となったわけである
―――
花屋さんでお買い物をし、家へ帰り丁寧に包まれた包装を解きバケツにお花を移す。
持ち帰るために包んだ際に花や葉が折れてしまったり絡まったりしていることもあるので、それらを解くことも大事だ。移し終えたら家にある花瓶やら水盤も用意し生け始める
バランスを考えながら適切な長さに切り、壺型の花瓶へと収める。後ろに添える枝ものなんかは必要であれば切った枝をつかって止めたりもする。
止めたものにあわせて枝に沿うように大きめのお花を入れ、さらに手前に少し低くなるように入れ、正面から枝を挟んで反対側にも別の種類の花を一輪入れればそれだけでもきれいなものだ。
壁際なんかに置く際は正面と斜めで花のきれいなところが見えればそれで十分だ。同じ要領で水盤にも着手する。水盤には花留めの剣山を用いる分生けるのはすごく楽だ
あとは適当に残った花を一輪挿し用の細い花瓶に入れ、洗面所やお手洗い、各部屋に配置したところで花材が余っていることに気がつく。
一日はそのままでも花材は悪くはならないのでまた検討しようと置いておく。そして私はまたいろいろと別の作業を始めるのだ
別の作業というのは、それこそ特別ではない予定であった野菜の始末だ。生けている間にきたのだろうトラックの走る音は聞こえていた。
一人暮らしなのに(たまに兄姉がくるけれど)隔週だからか割りと大量である。野菜は軽く湯がいておいていいものは湯がいて冷凍しておくと野菜室も空き、すぐに調理に使えたり何かと便利だ
今日はないが他にもある程度量が多くて湯がいておくこともできないようなものはぬか漬けにすべく、いくつかすぐぬか床につけたりなんかもしたりする
お米なんかも自宅で精米するため米ぬかが余っていたのだが、ぬか床をつくることでそれも解消され、ほかの米ぬかは意外にも栄養満点のクッキーなんかになったりする
他にも掃除やら洗濯やら家庭的なことをしていれば予定のない一日などあっという間におわるものだ
―――
「ごめんくださーい。」
そういって私が顔を出したのは約束していた蘭ちゃんの家ではなくその下にあるポアロだ。なんだかんだ週に2、3回はコーヒーを飲みながら読書や勉強をするために通っているのだ
「凛音ちゃん、いらっしゃい」
そう声をかけてくれたのは梓さんで、彼女とマスターにお土産です。と渡欧土産の袋を渡していたら奥からマスターも姿を現す。
「ありがとう凛音ちゃん。今日は随分と荷物が多いね‥何か飲んでいくかい?」
「久しぶりだし頂きたいけど、今日はお二階さんに用事があって‥なのでまた来ます」
「そうか、また暇な時おいで。」
「ありがとうございます。」
今回お土産をもってきたのは蘭ちゃんの家にいくついでになってしまったが、マスターにはいつも良くしてもらっているので日頃のお礼も兼ねている。
渡すものを渡し終え、ポアロをあとにする。
横の階段を上がり毛利探偵事務所の呼び鈴を押す。すると蘭ちゃんが出迎えてくれた
「いらっしゃい、凛音ちゃん」
「お邪魔します、コナンくんは?」
「出かけてるみたいで今居ないのごめんね」
気にしないでと蘭ちゃんにいいつつ周りを見渡す。蘭ちゃんのお父さんこと迷探偵の小五郎さんもいて、彼は窓際のデスクでテレビを見ていた。
小五郎さんにも挨拶をすればいらっしゃいと返事をいただけて蘭ちゃんに向き直る
「そうそう、持ってきて押し付けに近いんだけど、家で余ったお花なんだけど探偵事務所にもどうかなとおもって‥よかったら生け込みさせてもらえない?」
「うちはかまわないけど、いいの?」
「もちろん。うーんと、入って右手の机のところと中央の机に飾らせてもらっていいかな?大きめの花瓶と小さめの花瓶とバケツある?」
「ちょっとまってね。」
昨日の残りのお花を持っていたため、ポアロでも荷物が多いと指摘されてしまったわけだ。おまたせーといろいろ用意してくれた蘭ちゃんにお礼をいい、生け込み作業をはじめるのだ
要領は昨日と変わらない。お花自体は買った時からいいものばかりなので問題ないが時間が経ってしまったため少し弱っているものもある
水切りもしくは水揚げとよばれる、いわゆる切り口を綺麗にして、水を吸わせてあげることでよくなるわけだ。バケツに移し替えて水中で花鋏で切ることでより花に優しく水揚げできる
言葉で表すとものの数秒で終わってしまう生け込みだが、実際は花をみてバランスを考えて位置を考えて生けてみて、ダメならやり直してなんてことをしているので意外と時間はかかる
どの程度かかったかというと先ほど挨拶したはずの小五郎さんがお昼寝をしてしまえる程度に静かな室内で時間が経ったわけだ
蘭ちゃんは私のその作業を邪魔しまいと眺めているのだろうなと何となく感じる
今回は緑の豊かな葉のついた枝を後ろに置いて、手前に3種類の色の違う花を生け込んでみた。緑に映える花の色が綺麗に見えるものである
応接用のテーブルの上には小さな一輪の花を生ける。それだけでも華やかに感じる。小五郎さんの机の上はお察しだけれども‥
―――
「こんな感じでどうかな?」
「すごくいいよ!やっぱ花があるだけでも随分違うものねー‥ありがとう凛音ちゃん」
「いえいえ、探偵事務所も華やかなほうがいいだろうし、蘭ちゃんがよければまた生け込みしにきてもいい?」
「もちろん。むしろお願いしたいくらい‥‥それにしてもコナンくん遅いわね‥」
「んーそろそろいい時間だよね。近所の探検とかしてるのかな?」
持ち込むときの包装や切った茎や葉なんかをまとめて袋に入れたり、花鋏を拭いてしまったり、バケツの片付けをしたりしながらそんな話をする
コナンくんは探検せずともこのあたりは詳しいだろうに、博士のところにでも行っているのだろうかと考えてみる。今日は昨日あらかた済ませてしまったし特に予定もないので帰るのが遅くなっても大丈夫だが
ガチャと開いた探偵事務所の扉の音に蘭ちゃんが反応をした
「おかえり、コナンくん。凛音ちゃんきてるわよ」
「こんばんは、コナンくん」
「凛音ねーちゃん、こんばんは」
改めてねーちゃんの破壊力の凄まじさを感じる。
自身が前世は一人っ子だが、現在は末っ子であるということもありこんな年下のショタにそうよばれることもないだろうとおもっていた。その分目の前の現実は恐ろしく衝撃的である
「じゃあ私夕飯つくるから、二人でお話してて?今日のお礼に凛音ちゃんも食べてく?」
「いや、今日のは自分の趣味の延長だったわけだし‥夕ご飯は家にも食べなきゃいけないものあるしお気持ちだけもらうね」
「今日のって?」
「あそこのお花ね、凛音ちゃんが生けてくれたの」
「へー‥すごいね凛音ねーちゃん」
そんなやり取りの中、小五郎さんの目覚ましが鳴る。その音に勢い良く起き上がった小五郎さんはテレビを付け、そこに彼の推している沖野ヨーコの番組が流れる
そういえば美人に目がないとかそういう感じだったこの人‥
―――
※生け花の表現なんかは自分の知識程度。気軽に楽しむくらいで。自分がやってるのも具体的にはいいませんが型とか流派とかないのです
作中の季節とかよくわからないので花の名前は出してません。
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