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12
「そろそろ寝るね?なんだかとても眠くて」
しばらくして、私は切り出した。
「おやすみ」とマッキーは言う。「おやすみ」と返すと優しく髪を撫でられる。
「もしも夢の続きを見たら、話してくれないか」
「……うん、わかった」
一緒にベッドに入って私は仰向けに寝転がる。すると、彼はこちらを向いて、何かを言いたそうに視線をこちらに注いでいる。
ちらりと私も視線を返すと、真剣な顔で彼は呟く。
「怖かったら、起こしてくれ」
「ありがと」
その返答に満足そうに頷くと、マクギリスは電気を消した。
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翌朝、夢を見なかった私は、隣で眠るマクギリスを起こさないようにベッドからそっと起き上がり、ほっとして小さく息を吐いた。
よかった、現実世界だ。戻ってこられた。
気持ちよさそうに眠るマクギリスが愛しくて、しばらく見つめてから立ち上がり、朝食を作りにキッチンへと向かった。
「おはようアーネ」
「おはよ、マッキー」
彼が起きてきたのは朝食が出来上がった後だった。休日ということもあり、テレビでも観て待ってようとソファに座っていたら、彼がまだ眠そうな目のまま私に問う。
「夢は見なかったのか?」
「一応ね。でもまたいつ見るかわからないし」
「そうだな」
うんうん、と頷く彼が隣に腰掛ける。その光景が、夢の中の出来事とどことなく重なった。
どこかで見たことがある。デジャヴだろうか。
いや、思い違いだろう。彼が隣に座るなんてこと、ここで暮らしていれば日常茶飯事なのだから。そう思っていた矢先、マクギリスは私に寄り掛かる。
「眠い」
気のせいだ。夢の中での彼なら、妖艶な笑みを浮かべて私にキスでもするだろう。
しかしこちらの世界の彼はそういう雰囲気はあまりない。その差が私の心に何をもたらすのかは、まだわからないが。
「ほら、せっかく起きてきたんだから、ご飯にしようよ」
「……ああ、君の作るご飯は美味しいからな。いただこう」
「じゃあここで寝ないでね?」
マクギリスの眩しいくらい美しい金髪に指をとおして、彼の体重が私から背もたれに移動するのを確認すると、私は立ち上がる。キッチンへ向かえば、朝食の時間だ。
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その日の夜のことだった。
やはり同じくらいの時間に急に眠くなり、ウトウトしてしまう。しかも、起きようにも身体が怠くて動かず、どうにも起きれない。
「またなの……」
深い溜め息をついた瞬間、気づけば夢の世界に入り込んでいた。眠ってしまったのだ。
気がつくとそこには見知らぬ黒髪の青年がいた。若い。まだ少年を抜けきらないくらいの年齢だ。
そしてその青年は、こう言った。
「あなたを幸せにできるのは、マクギリス・ファリドではありませんよ」