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14
石動のおかげか、なんだか目が覚めた。
目の前に石動がいるから、余計眠れなくなってしまったのかもしれない。
意識してしまうというか、なんというか。
「眠気は覚めてしまったか?」
そんな私に気付いたのか、眠るまで見届けるつもりだったらしい石動が、端末から目を離して声を掛けた。
「んー、そうみたいです」
「……原因は、私だろうか?」
少し困ったように、石動は呟いた。
「どうでしょう?それより、お仕事、戻らなくて大丈夫なんですか?」
「夜勤といっても、准将がいないからな。出来ることといえば、明日の予定確認や、情報の整理、作戦プランの作成……ぐらいだ」
彼の問いには、あえて答えずはぐらかした。石動のことだから気づいているだろうが、それ以上問い詰めても来なかった。
普段は無表情に近いのに、どうして彼は、私といるときだけはこんなに表情を見せてくれるのだろう。
少し前に、なんとなく告げられた、間接的な告白。いや、告白というほどではないだろう。しかし、それが私の中でどこか引っかかる。本当に彼が私のことを好きだというのなら、辻褄が合うことでもある、が。
「アーネを放っておくことも出来ない」
「……どうして、」
無意識に声が出ていた。
「どうして、私なのですか?他にたくさん、石動さんのことを好きだと言う女性はいらっしゃるはずです」
真剣な眼差し、真剣な表情。
時が止まったみたいに、石動は何も言わずに私を見つめる。ただ、その瞳だけが何かを訴えている。その視線が肌に刺さって痛い。
「混乱してきた、」
言うつもりはさらさらなかったのに、そんな言葉が口から出た。
言ってしまった。言わなくてもいいことなのに、衝動的に口走った。後悔してももう遅い。
石動は眉間に深い皴を寄せた。
「……君は、私のことを見捨てなかったからだ。ただ、それだけだ」
ついにくちにしてくれた言葉は、それだけだった。
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朝、目覚ましではなく窓から入る光で目が覚めた。
結局昨晩はあのまま眠ってしまったらしい。
石動は、もういなかった。
それもそのはず、彼は夜勤なのだから、仕事に戻ったんだろう。
そして朝になったから、帰ったに違いない。そう思い昨晩のことは気にしないことにした。
しかしその時、バンッと大きな音を立ててドアが開いた。
「アーネ、おはよう」
そこにいたのは、マクギリスだ。
思わず飛びついてしまいそうになったとき、彼の眉が吊り上がっていることに気が付いた。
───怒ってる?
「マクギリ、」
「さて、どうしてここにいるのか説明してもらおうかな?」
いつもの穏やかなマクギリスはいなかった。怒っている。確信した。
「ごめんなさい……昨日は、いろいろあったんです……」
「……ここは、石動が泊まっていたと思うが。彼と、何かあったりしたのか?」
「何もないです!ただ、また倒れかけた私を介抱してくれただけで……」
「そうか」とだけ言うと、マクギリスは強引に私を抱きかかえて(これも何度目だろう)、部屋から連れ出した。