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05




こちらの世界のマクギリスの家は、ものすごい豪邸だった。
私の知る彼の家はごく普通の一般的な家庭で、だからあんなふうに結婚して、一緒に暮らしていたというのに。
それがこの世界ではどうやら違うらしい。

「ここだ」

石動の運転する車から降りるや否や、目の前にそびえる大きな建物。玄関口には何人ものメイドが控えていて、漫画やアニメでしか見たことのない光景が広がっていた。

「中へ」

マクギリスの後をついて玄関へ足を踏み入れる。両脇に並ぶメイドのひとりが、「お客様ですか?」と尋ね、反対側のメイドはマクギリスが着ている上着を受け取るかどうか尋ねていた。
そういうのは慣れないため、ほんの少し居心地の悪さを覚える。

「うちで寝泊まりしてくれればいい、部屋は空いている」

「……え、でも、」

いきなり、こんな。マクギリスからしたら正体もまだわかっていない輩を家に泊めるという。そんなこと、許されるのだろうか。

「君が悪い人でないことくらい私にはわかる。なあ、石動」

急に話を振られて後ろにいた石動は目を丸くした。

「はあ。私が先程話した限りでは、ですが」

「では決まりだ、アーネ」

にこり。マクギリスは微笑むと歩みを進める。石動に玄関で待つよう告げてから、中へと進んでいく。
見渡す限りでも、とにかく広いとしか言いようがない。ひとつひとつの部屋もそうだが、廊下ですら幅が違う。そして天井の高いこと。吹き抜け、というのだろうか。

「彼女にこの部屋を使わせる。不便がないように用意を頼む。それと、彼女はこういう生活に慣れていない。出来るだけそっとしてやってほしい」

ひとつ、部屋の前で立ち止まったかと思えば、傍らに控えているメイドにそう言い、こちらを向いてくちびるに弧を描く。相変わらず、見とれてしまうほどに顔が整っている。怖いくらいに。



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用意が整うまでの間、客間でしばらく待っているとマクギリスが顔を出した。
そして携帯用の端末を渡すと、私に言う。

「それにはギャラルホルンの情報、今後の任務などが入っている。あと、暇つぶしのツールも石動が幾つか入れてくれたようだ、持っているといい」

「ありがとう、ございます……」

「困ったことがあれば、メイドに言うか私に言ってくれ。善処しよう」

「はい」

こちらの世界でもマクギリスはやさしかった。
だが、本当のところは元の世界へ戻りたい。帰りたい。帰って、あちらの、私を愛してくれるマクギリスに会いたい。だって、こちらの世界にも同じ顔の人がいるのに触れられないのは、それはあまりにも残酷すぎる。
顔に出ていたのだろうか。マクギリスは眉をひそめて私を見る。そして不意に隣に腰を下ろすと、私の髪を軽く撫でた。

「……不安か?」

図星だ。
視線を動かして彼の双眼を見つめる。透き通ったエメラルドの瞳。全てを見透かしてしまうようなそれは、私の目を見つめて離さない。

「……不安、です。正直」

「そうか」

「……はい。だって、私にはこの世界がわからないから……」

「ならば、知っていけばいいさ。私が教える」

一度は逸らした視線も、その言葉に反応してもう一度彼の元へ。すると彼は、微かに目を細めて笑った。その笑い方があちらのマクギリスとあまりにも同じで、私もつられて笑うしかなくなった。





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a love potion