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07





彼がコロニー出身者だということを、風の噂で聞いた。
ついでに言うと、この世界ではコロニー出身者は下に見られているというか、差別されているらしく、やはり地球出身の者の方が有利であるらしい。変な話だと思っても、それが常識化されているギャラルホルン内では通用しない。
だからか、コロニー出身者である石動を疎ましく思う者も少なくはなかった。しかしマクギリスは、実力があれば生まれなど関係なく起用しているようで、優秀ならば部下としてつかせていた。

「コロニー出身だったんですね」

「……ああ、そうだ」

石動はそれ以外、言葉を発さない。
傷付けてしまっただろうか。余計なことを言ってしまっただろうか。少し、心に影が差した。
ヴィーンゴールヴの本部の、午後の昼下がり。大きな窓からは明るい光が差し込んでとても眩しい。

「すみません、石動さんの気持ちも知らず、そんなこと」

「いや、」

目を伏せて、しかし次の言葉が出てこないらしく開きかけていたくちを噤んで、ゆっくりと私を見据える。

「でも、石動さんはすごい人ですから。回りになんて言われようが気にしては駄目ですよ」

言葉を選んで伝えようと頑張った。何があっても彼を安易に傷つけるようなことはしたくない。彼は繊細で、とてもやさしい。

「今までコロニー出身というだけで幾度となく差別されてきた。それなのに、准将は私を実力で引き上げてくださった。周りに何と思われようと、准将に必要とされているのならば関係がない。……と思っていたが、まさか君のくちからそんな言葉が出てくるとは……」

眉尻を下げながら石動は言葉を紡ぐ。もしかしたら、こんなふうに言う人に出会わなかったのかもしれない。人通りの少ない廊下でひとりでに思う。

「……ありがとう」

そんな私に向かって予想外の言葉が投げかけられ、逸らしていた目を反射的に彼に向けた。丁度逆光でうまく捉えることが出来なかったが、ほんの少しだけ彼は笑っていたように思う。



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「准将、どうして石動さんをそばにおこうと思ったんです?」

その日の夜、マクギリスと共に過ごしているときにふと、思いついたように尋ねてみた。
思いもよらなかったのかマクギリスはきょとんとした顔で、「内緒だ」と笑う。
教えてくれたっていいのに。その意味を込めてくちびるを尖らせると、彼はそこに指を這わす。

「くすぐったいですよ」

「気のせいだろう」

ソファに腰掛けるマクギリスの脚の間に私は腰掛けていて、後ろからはしっかりと抱きしめられている。抵抗しようにもこれではかなわない。そんな私を満足気に上から覗き込んで、頬を触ったり先程のようにくちびるをなぞったりするもんだから、ほんの少し彼を睨みつけた。

「いたずらしないでください」

「君がとても可愛らしいからな、つい」

「准将……」

「マクギリス、と呼んではくれないだろうか?何なら“マッキー”でも構わないさ」

この男は心底意地悪だ。
初対面のとき、思わず“マッキー”などと呼んでしまったからか。どうやらそう呼んでほしいらしかった。尚もこちらを見続ける彼のエメラルドグリーンを見つめ返し、しばらく沈黙する。どうするのが最良の選択だろう。常に思うのは、本当に全く同じ顔なのが悪い、ということだ。性格は幾ばくか違うというのに。

「私の名前を、呼んでくれ、アーネ」

そう言って、今度は横からこちらを覗き込んで、くちびるにキスを落とした。






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a love potion