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08





「生意気なんだよ、コロニー出身のくせによ!」

ドンッという音に次いでそんな声が聞こえて、私は息を呑んだ。
石動さんのこと。
他に思い当たらない。
声のした方まで思いっきり走って、石動を探す。どうしよう。怪我とか、してたら。声と共に鈍い音も聞こえていたということは、絶対に何かあったはずだ。
廊下を走って、通路という通路を見て回る。
いちばん突き当たりの、人気がほとんどない通路に彼の姿はあった。奥の、窓のすぐ近く。3人ほどに囲まれていて、石動は何も言わずただ黙って彼らを睨んでいる。

「……私が准将の副官になれたのは、執務においてもMSの操縦においても、その実力を准将が認めてくださったからだ。准将は生まれで判断などしないお方なのだ、それくらいわか───」

言葉を遮るように男は石動の胸ぐらを掴んで壁際に押し付ける。
───いけない。反射的にそう思った私は、声を張り上げる。

「石動さん!」

男たちは声に振り返り、焦ったような様子で胸ぐらを掴んでいた手を離す。またアリアンロッドの制服。さすがに男性には適わないだろうから。こちらへ標的が向くようならマクギリスを呼んで───。
そう思った矢先、彼らは気まずそうな顔をして走り去って行った。
疲れきったような顔をして、虚ろな瞳で私を見つめる石動の傍に駆け寄り、声を掛ける。

「石動さん!大丈夫ですか?怪我は?」

「……問題ない、」

「とりあえず座れるところまで行きましょう」

肩を抱いて並んで歩く。幸いほとんど殴られてはいないようだったが、彼は本当に今にも泣きそうな顔をしていた。

休憩室まで歩いて、石動を椅子に座らせる。小さく溜息をついたその背中をさすって、俯いた彼の隣に座る。こんな姿、初めてだ。

「気にしてはいけないと、わかっているつもりではあるのだが」

今にも消え入りそうな声で話し出す。
その声は震えている。

「……頻繁にあのような目に遭うのは、疲れてしまう」

「石動さん……」

こんなにも傷ついて。
いつも何も無いようにして振舞っているけれど、今はこんなにも苦しそうに私に話す。
まさか、ここまでぼろぼろになっていたなんて。堪らなくなって横からやんわりと彼を抱きしめた。
こんなに小さくなってしまった彼を放っておけない。
それに、彼が苦しんでいい理由なんてこれっぽっちだってない。

「……アーネ」

「嫌でしたら申し訳ありません」

「いや、」

石動は微笑んで、こちらに体重を預ける。私の小さな身体で彼を包み込むことは出来なくても、少しでも安心してもらえたら。首に触れた、彼の髪をくすぐったく感じながら互いに腕を回す。
心臓が少しだけ速い。それは、彼のものだった。

「こんなふうに抱き締められるのは、いつぶりだろうな……」

ふと、ぽつりと呟くその言葉は少し重かった。

「……落ち着くまでこうしてますね」

「……ああ。感謝する」

そうしてしばらく、私は彼をあやすように背中をぽんぽんとたたいて、彼が落ち着くまで抱きしめていた。
石動はとても安心したように私に身体を預けていて、その体温は温かく、私までをも安心させた。





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a love potion