■ ■ ■


09





それからしばらく、何事もない日々を繰り返していた。
朝はマクギリスの家で起き、出勤してはマクギリスと石動と共に任務をこなし、帰りは石動に送ってもらいながらマクギリスと共に帰る生活。
もうこの生活が当たり前になるくらい日数が過ぎたし、どうやら自力で元の生活に戻る方法もないらしいこともわかり、半ば諦めかけていた。……むしろ、この生活に慣れすぎてしまっていて、元の生活に戻れるかどうかという不安すら抱くようになった。
朝も夜も、丸一日中マクギリスと過ごす生活。ごく一般の夫婦よりも、共にいる時間は長いであろう。

「アーネ」

部屋で一人過ごしていれば、案外寂しがり屋の彼は私の部屋を訪れる。そして無論、恋人なのだから、それなりにすることもしていた。
キスは日常茶飯事と言っていいほど、むしろ挨拶がわりにしていたし、何かあれば彼に抱きしめられていたし、何より髪を撫でられることがいちばん多かった。しかし、未だに身体を重ねたことはない。私はやはり、それなりにそうしたいことはあるし、甘い雰囲気になれば、少しくらい期待だってする。それでもなお、マクギリスは私に手を出さない。

それにはきっと理由があるのだろう。

言わずもがな察してはいた。
それを確認すべく、彼がパーティへ行って珍しく酔って帰ってきた今夜、ソファに気だるそうにもたれ掛かるマクギリスの頬を撫でてみる。酔いが回り紅潮した頬がリンゴのようでとても愛らしく、そこへ優しくキスを落とす。

「……どうした?」

いつもはこんなことしないからだろう。不思議そうにマクギリスは私を見つめる。とろんとした瞳は潤んでいる。今日、今がチャンスだ。根拠なく思った。
何故か今日は積極的になれそうで、彼の太股の上に跨ってみる。向き合うような形で落ち着き、もう一度正面から彼を見据える。

「……マクギリス、」

「酒臭いだろう?近寄らない方がいい」

「そんなこと、ないです」

首を横に振る私を見つめ続けるマクギリスは、少しだけ笑う。

「寂しかったのか?」

決してNOではないが、YESとも少し違う。
頬を覆っていた手のひらをゆっくりと彼の髪へ通す。眩しいくらいの金髪が指の間をすり抜けていくのが愛おしい。キスが欲しいくせに、くちに出して言えずに押し黙る。目の前の美丈夫はというと、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、腕を伸ばして前髪をなぞって、優しく頭を撫でる。そんなに、そんなふうに優しく触って欲しいんじゃない。今は、……。

「……ちがう。もっと、」

「ん?」

「もっと、」

言葉にするには難しく、そして恥ずかしすぎる。咄嗟に彼に抱きついて、熱くなった身体を落ち着かせようか、もう少し熱いままでいるか。マクギリスの鼓動が少し早まる。しかしそれは、酔っているせいか?

「今日は甘えん坊さんかな?」

耳元で低い声がする。悔しい、こんなにいい声で。
背中に回された腕が徐々に動き、腰をなぞって太股におりる。くすぐったいと顔を上げた瞬間、キスが降ってきて驚く間もなく、彼の瞳が近くまで迫る。

「マクギリ、んっ」

あまい。ちょっぴりお酒のにおいがして、それも含めて酔ってしまいそうだ。何度か交わしたあと、マクギリスは続ける。

「君が求めるならば、応えよう」

そしてまた軽々と私を抱き上げて、口元に孤を描いて笑った。

「……しかし、」

真剣な声音で彼が次に紡いだ言葉は。







back | next

- 9 -

a love potion