種類が違う?種類だけが?
ますます訳が分からない。
「あの、私のところでは、容疑者としてこの人は捕まっているけど、こっちでは容疑者ですらない、って言ってましたよね…それは…」
「単に、捜査中なだけです。ただ、この男は、私の中での最有力候補となっている人物なんです」

すっと両腕が解放された。
脈以外の、私のなにもかもが、数秒止まる。

彼が言ったこと。
それはつまり、竜崎さんがこいつに目星をつけていた、ということかなのだろう。
ふう、と息をつく。
明らかにキャパシティ・オーバな頭は、この際、置いてけぼりにすることにしよう。


きっと竜崎さんは、二つの世界の共通項を見出だそうとしている。それが分かったから、頭に浮かんだ疑問をそのままぶつける。
「でも、その人が犯人だったのは、私の世界での話ですよ…此処でも同じ人とは限らないと思いますけど…」
現に、起こした犯罪は違ってますし、と自分としては真っ当な意見を言えば、今まで焦り顔だった彼は、すこし笑って見せた。緊迫感のある笑みだ。
「それはまだ、分かりません」
「ま、まだ…?」
「はい。私が目星をつけているというだけで、まだ物的証拠を集めきっていないんです」
はあ、と気の抜けた返事をどうにか返す。
「しかし、これは時間の問題です」
底のみえない真っ黒な目が、私を捉える。これはきっと、自信満々の顔だ。つまり、時間さえあればその人が犯人であったと立証が出来る、ということだろう。

だけれども、と私の頭が唸る。
だからと言って何なのか。
それでもし、今回の二つの世界で起きた似ている事件の犯人が、同姓同名・同じ人間だったとしても、それは偶然の一致かもしれない。偶然だとしたらすごい確率だが、無いとも言えないはず。それなのに、そんなことに何の意味があるのか。同じだったとして、それが何なのか。正直言って、私には見当が付かない。

その不満が顔に出ていたんだろう、竜崎さんは再びソファに腰を落ち着けて、くるりと表情を変え、おちゃらけたようなカエルみたいな顔になる。
「ひとつの事件だけを対象にしても、大きな意義は得られません。やるからには、多量のデータによって裏付けることが大切です」

「へ、、なんの、ことです?」
「つまり、何回か実験をするんです。そちらの世界と、こちらの世界、どちらも同じ人物が犯罪を行うのかどうか」

何回か実験。
するりと簡単に彼の口から出てきたその言葉は、ゆっくりと私の頭の中に浸透する。
と思ったけれど、だめだ、やっぱり入ってこない。
「あの、すみません」
「はい、なんでしょう」
「何回も実験、というのは…」
「二つの世界の事件の原因が、同じかどうか、ということを突き止めるために、いくつかのサンプルをとって、実験し、確実なものにするわけです」
少しずつ竜崎さんのやりたいことが分かってきた気がする。きっと、それがこっちの世界での犯人の検挙に良い影響があるんだ。
しかし、なんだか曇る私の胸。もやもやがある。
その正体は、本当に同じ人間が犯罪を起こしていたとしたら、その人は"あらかじめ悪いことをする人"として決められていたみたいで、正直やるせない、という感情だ。
「…もし竜崎さんが考えている通りだとしたら、なんていうか、悲しい…虚しいですね」
それまで不気味な笑顔でで受け答えていた竜崎さんが、途端に真顔になる。私もその雰囲気にやられて、なんとなく背筋を伸ばして座り直した。





 




-Suichu Moratorium-