「もふさん、起きられますか」

はっと目を開けて周囲を見回す。
寝惚けているなりに、目をこじ開ける。
誰もいない。
確かに竜崎さんの声がしたのに。
また隠れたのかと思い、恐る恐る探してみる。
しかし、いない。


「気のせい、かな」


「気のせいではありません」
「わあああ何ですかもう!!」

慌てて声がする方を睨むと、ドアの隙間からこちらを覗いている隈だらけの目。完璧にホラーだ。
すみません、と全く悪びれない様子で言いながら、彼は私の部屋のドアを90度開けた。

「具合でも悪いんですか?」
「ああ、すみません。眠かったので二度寝しちゃいました」

ベッドから起き上がって軽く謝ってから、くしゃくしゃになった自分の服を正す。

「今は丁度、21時です。お腹は空いていませんか?」

もうそんな時間か、と竜崎さんの言葉に驚いた。丸々12時間も寝てただなんて信じられない、ナマケモノにでもなってしまったような気分だ。

「…大丈夫ですか?」
「っああ、お腹は、その…」

空いた。
でも、こんなに立派な部屋を貸して頂いた上に、ご飯もご馳走になるなんて、なんだか罪悪感と申し訳なさしか無い。さて、なんて言おう。と考えていると、竜崎さんが動いた。

「では、丁度、夕飯にするので一緒にいかがですか」

「…良いんですか?」
「あなたを餓えさせる理由も必要も有りません。では、リビングにいますので、支度が終わったらいらしてください」

そして竜崎さんは、そそくさとドアを閉めて行ってしまった。

「申し訳、ないよなあ」

ただの居候の私に気を使わせてしまった。
こともあろうに、私が断れない言い回しさえも使って。はあ。さすがに図々しい私でも自分の不甲斐なさというかやり切れなさに落ち込んでくる。
何か私にやれることでも、無いのだろうか。何かのお手伝いでも掃除でもお茶汲みでも何でも良い。この際、苦手な家事だってやっちゃうくらいの勢いだ。どうにか竜崎さんに恩返し的な事が出来ないかと考えながら、何気なく洗面台の鏡の前に立った。

無意識にみた鏡。そこには、わー…と思わず悲しい声を漏らしそうになる程にひどい格好の私がいた。先程の竜崎さんへの思いやりも吹っ飛びそうなくらいである。
ノーメイク。なんたる部屋着。
一人でのんびり家に居るならまだしも、赤の他人の高級ホテルに絶賛軟禁中。これでパラレルワールド?冗談じゃない、今更ながらとても恥ずかしくなってきた。私を此処に連れてきた神様が居るんなら、死んだときに呪いながら上四方固めを決めてやる。

「もふこさん?」

はっとしてドアに振り返ると、穏やかな笑みを湛えた素敵な紳士。わたりさん。

「あっごめんなさい!直ぐに行きます!!」
お待たせしてしまった!と内心だだ焦り。気を使わせご馳走になる上に、なんて迷惑なことを。適当に髪の毛を整えて(悲しいことに何も変化はない)から、謝りながら小走りにわたりさんの元に向かう。

「そんなに急がれなくても結構ですよ」
ホ、ホ、ホと優雅にしかも楽しそうに笑うわたりさん。
「お待たせしてすみません!…あの、ご飯とか部屋とか…その、居候みたいな真似をして、申し訳ありません」
そう謝ると、「困ってるときに助け合うのは当たり前のことですよ」と、なんとも人のよい答えを優しく返してくれた。
そう言われてしまえば私の方からは何も言えなくなって、ばつの悪い笑顔を返す他なかった。





 




-Suichu Moratorium-