「おいおい冷めたこと言うなよ、アキカ」
「びっくりした。驚かさないでよ、えっと、ジョージ?」
思わず落とした羽ペンを拾い、振り返るとジョージと思われる片割れがパジャマ姿で立っていた。
1週間経ってもグリフィンドールで「ジャパニーズガール」と呼ぶのはフレッドだけだ。
だが、2人の差はそこくらいしか分からず、もしジョージがそう呼んでいたら私はフレッドと思うだろう。
「そ、ジョージ。なに、宿題してんのか?」
「そうだよ、マグル学の宿題をアンジーとしてたの」
ゲーと舌を吐き出したジョージに「終わった?」と聞くのは諦めた。
分からないところがあるのに。
日本ではマグルと密接に関わりながら暮らしてきたから自信はあったつもりだった。
でも、ロンドンのマグルがどう暮らしてるかは分からない。
バーベッジ教授は厳しいから適当なことは書けないだろう。
「アキカ、寝ないのか?もう11時回るけど……」
「ん、この問題だけ終わったら寝る」
重たくなった瞼を擦りながら項目を探す。
日本語ではない文字はなかなか頭に入ってこない。
「変圧器」
「え?」
「その問題、変圧器」
とんとん。
すらりと細く、けれど力強くゴツゴツとした指が羊皮紙を叩く。
綺麗な指。
それが印象的だった。
小さくお礼を言い、Transformerと書き込んだ。
静かになった談話室で、薪の爆ぜる音だけが響く。
「あのさっえーと、もう慣れた?」
「え、あ、うん。少しまだ戸惑うけど、慣れてきたよ」
「戸惑う?」
「んー、やっぱり寮対抗で得点争いするのには慣れないね。マホウトコロでは寮で分かれてたけど、対抗戦することなんて本当に少なかったから」
「へぇー、マホウトコロはないのか。でもさ、短い学生時代だぜ?何事も楽しまなきゃ損じゃないかい?」
頬杖をつきながらニヒルに笑うジョージの横顔が、暖炉の光に照らされてユラユラと影が動く。
ああ、この人は自由に生きてるんだ。
何に縛られること無く、それを誇り、自分を信じて。
私はどうなんだろうか。
あれを、誇れてる?
「え、な、ど、どうした!?」
「え?」
ジョージが唐突に動揺し始めた。
少し冷たい気がして頬に触ると、濡れていた。
泣いている?
私が?
「ご、ごめん!なんか、ごめん!」
あまり綺麗とは言えないローブで、少し乱暴に涙を拭うジョージが面白くて軽く笑う。
「ごめん、ジョージがなにした訳じゃないの。ジョージは自由だなって思ったら、涙が出てた。情緒不安定だね。ホームシックかな」
「…………なれるよ」
「え?」
「アキカもなりたいなら、自由になれる。グリフィンドールに選ばれたんだから、アキカには素質があるんだ」
「……ジョージみたいに?」
「ああ。フィルチやスネイプをクソ爆弾塗れにするのは楽しいぜ?」
「ふふ、それは遠慮する」
「残念」
両手をヒラヒラとさせながら、全く残念と思ってないような口調で笑う。
「手始めに、寮対抗杯にもっと情熱を掛けてみるね」
「ああ、それがいい。今年こそは、あのいけ好かないスリザリンの奴らの鼻を明かしてやろうぜ」
大袈裟に悔しがる真似をするジョージに、また笑いが零れた。
さぁ寝よう、というジョージの言葉を合図に、立ち上がる。
「ジョージ、」
「ん?」
「その、ありがとう。おやすみなさい」
お礼を言うなんて珍しい事じゃないのに、何故か照れ臭くて。
ジョージの顔も見ず、そそくさと階段を駆け上がり、ふかふかの布団に潜り込んだ。
冷えた布団が、変に心地よい。
握りしめられた手が熱を持ったかのように、熱く火照っていた。
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