「ジャップスアイ、貧乏ウィーズリーの護衛はなしかい?」

踏み外さないように足元を見ながら駆け上がっていると、上からなんともまぁ嫌味ったらしい声が聞こえた。
スリザリンの寮は地下でしょ、なんでここにいるのよ。と思いつつ顔を上げれば、取り巻きを連れニヤニヤと笑うドラコ・マルフォイが立っている。
なんともまぁ、ご丁寧に取り巻き達に道を塞がらせて。



「あら、ご機嫌いかが?ああ、人の名前を覚えられない程オツムが弱ってらっしゃるのね」

「はっ、ジャップスアイの名前を覚える必要なんかないね」

ゲラゲラ、と取り巻き達の笑い声が不快に響く。
耳障りなそれを振り払うように大きくため息をつき、ゆっくりとマルフォイの目の前まで上がる。
日本人の割に大きい身長に加え、彼は成長期を迎える前の少年だ。
1段上にいるにも関わらず、目線は私よりも下にあった。
威圧感を感じたのか、なんなのか知らないがマルフォイは居心地が悪そうに若干身動きをする。


「差別用語を言えば傷つくとでも思って?お生憎様。性根の腐りきった悪臭漂うお子様達に、何を言われても全く響かないわ」

「なっ!!!あまり僕を馬鹿にするなよ、ジャップスアイ。マホウトコロから厄介払いされたお前なんか、お父上に頼めばホグワーツにもマホウトコロにも居られなくできるんだぞ」

怒りで顔を赤らめたマルフォイが放った一言に虚をつかれた。
なんで。
どうして。
あのコトを知っているの?
思わず言葉に詰まる。
耳の奥で轟々と音が鳴り、物凄くうるさい。


「お父上は様々な方と交流を持ってらしてね。お前の事を話したらすぐに教えてくれたさ、マホウトコロで何があったかを」

音が、ドンドンと大きくなる。
轟々と濁流のようなそれは、思考を飲み込み、何を言えばいいのか分からなくなってくる。
嫌味ったらしく笑うマルフォイの顔が、取り巻き達の下品な笑い声が、ぐにゃりぐにゃりと気持ち悪く混ざっていく。
咄嗟に杖を構えようとしたが、先程のマルフォイの言葉に縛られたかのように杖を抜けない。



もし、ホグワーツに居られなくなったら?
お父様は今度こそ怒るだろう。
お母様は、泣くかな。
カドクラ家の恥さらし、いらない子とでも言われるかもしれない。

もし、グリフィンドールの皆が知ったら?
怖がって離れていくかな。
軽蔑、されるかな。



歪む視界の中で、自分が泣きそうになっているのが分かった。
こんな、こんな奴に泣き顔を見られるなんて悔しくてたまらないのに、湧き上がる涙は止まってくれない。


「アキカ!」

後ろから突然、目を覆われた。
大きな、ゴツゴツとした手は私の視界をすっぽりと覆い隠す。

背中にジンワリと伝わる熱。
耳元で聞こえる少し早くなった呼吸。
ふわりと香る、火薬の匂い。


「ジョー……ジ」

どうして、なんて分からない。
ただ、この人はフレッドじゃなく、ジョージだと確信できた。


「Ladies and gentlemen!お気を付けあれ!改良版クソ爆弾は、臭いもこびり付きも強力に!3日は臭いは消えないことを保証するぜ!」


今度は前方からフレッドの声がした、と思った途端いつものクソ爆弾よりも遥かに強い臭いが鼻をついた。
下品な笑い声はいつの間にか阿鼻叫喚に変わっている。


「行こう」

手を外された途端、目に飛び込んで来たのは頭からクソ爆弾塗れになり慌てふためくマルフォイ達。
ゆっくり眺める時間もなく、ジョージに手を引かれ、階段をゆっくりと下りた。


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