お誘い


ゴールデンウイークも明けて、気の乗らない仕事に行く。しかし1週間もするといつも通りの生活に戻るのだ。

そんな週の夜にメールが届いた。何気なしに開くとそれは同期の男性からだった。内容は"明日か明後日の昼食を2人で食べに行かないか″というお誘いだ。この前、同期会で話していて社交辞令だと思ってたのに、誘ってくれたようだ。ヤバイぞ、ちょっと嬉しいかも。待ち合わせなどを決めて、もちろん喜んで行くことにした。





翌々日、取り敢えず会社の外で待ち合わせにしていた私達。

「ごめん遅れた?」
「いや、大丈夫だよ」

笑顔の彼が進む方へと足を進める。

「ちょっと歩くけど、会社には間に合うから。まぁいたって普通の定食屋なんだけど、美味しいんだ」
「へぇ楽しみ」

共通の同期の話をしながら、定食屋に着いた。やや古そうだが中のガヤガヤした雰囲気が伝わってくる。


ガラッと戸を開ける彼。すると決まり文句のいらっしゃいませと言う声がかかってくる。その良い声にどこか馴染みがあるような気がして、少し覗き込むと他の客の注文をとる見慣れた横顔があった。そうそれは少し汗をかき頭にタオル巻いた新開君であった。

「っ、」
「みょうじさん?」

同期の彼の声にハッとして、席に着く。
…ここだったのか新開君のバイト先。というか、もうこれ完全にバレるじゃん。な、なんか非常に気まずい…。
そんな私の気を知らずに向かいの彼は楽しそうにメニューを決めている。

「ご注文はお決まりですか…っ」

水を置きながら言う新開君が私を見て言葉を飲んで一瞬固まった。ので私も固まる。

「…っ」
「ああ、じゃぁこれで。みょうじさんは?」
「ぁ、じゃこれで」

決めてないがもうそんな事どうでも良い気がした。頭が真っ白になりながら、適当にメニュー表の上の定食にした。

「…ここ、ご飯多いので少し減らしておきますね」
「…ハイ、よろしくお願いします」

メニューをとって戻っていく新開君。…ああ言ったのは、私がご飯いつも少なめだからだよね?

「みょうじさん知り合いなのか?」
「あ、まぁ…顔見知り、かな」

さすがにおかしいと思ったのか聞いてくる彼。に顔見知りとしか言えない、同居人とか絶対言えやしない。
料理を待つ間、彼の話を笑顔で聞く私。さっさと食べて会社帰りたい。なぜか居心地が悪いし、空気も悪い。
新開君によって運ばれた料理を食べる。ご飯は私がいつも食べていそうな量だ。
…そして確かに味はとても美味しい、賄い付きで良かったね新開君と頭の端で思ったが、そんな事よりも早く食べた昼食だった。



新開君が会計伝票を入れにくる。そしてそのまま立ち去ると私は思ったのだ。
なのに新開君は何を思ったか、机の上にあった私の手を上から覆うようにギュッと握ってきた。包まれる手が熱をもつ。

「へっ!?」

驚く私と目の前の同期の彼。アホみたいに胸がバクバク音をたてる。

「…なまえさん、俺今日の夕飯いつもの大根のバラ肉の炒め煮が良い」

いつもの呑気な笑顔でなく、時折見せる鋭い目つきで言ってくる新開君に頷く事しか出来なかった。



その定食屋からの帰りなんて全く覚えていないが、この彼が私を誘ってくるとことはないだろうことは分かった。















本当どうしてくれるのよ、私の邪魔して!折角良い雰囲気だったのに…もしかしたら久しぶりに付き合えたかもなのに…。帰ったら文句を言わないと、そう思いながらなぜか少し重い足取りでアパートに帰る。

「っ…ただいま」

開けると同時に新開君が部屋から玄関に出てきた。

「おかえりなまえさん」
「おかえりじゃない、昼間何してくれてん「で、あいつ誰?」

荷物を持ってくれるのかと思った新開君の手は私の手首をギュッと握り上げられ荷物を落とした。そしてぐっと少し壁に追いやられた。必然的に新開君とグッと近くなる距離になぜか戸惑う私。

「!?っ、同期だから」

問い詰めようとしたのに昼間の様な鋭い目つきで見下ろされているせいで何か私がいけない事をした気にさせられる。少し強めに握られた痛くないはずの手首が痛く感じる。そして手首を振り解こうとしているのにビクともしない。

「…俺、顔見知りのつもりじゃないんだけどな」

では同居しているとでも言えと言うのだろうか?そんな事いったら何か誤解されるじゃない、なんでそんな訳わからない事を言うのよ…。いや、もう変な誤解されていたけどさ。今までにない新開君の迫力に口が重くなる。

「っぅ、べ、別にいいでしょ!?新開君は私の何なのよ!?」

私が必死に睨みつけたら、キツイ顔から一転ポカンとする新開君。

「…えー、と俺はなまえさん専属の警備員だからな」

テヘペロ的な顔してバキュンと撃ってくる新開君にイラッとして脛を蹴った。これは私は悪くない筈だ。

「っ、そこまで警備しなくていいから!!」

そのまま緩んだ手首の手を振り切る様に自室に行き、バシン!と音を立てて戸を閉めた。



そのままズルズルと床にへたり込む。掴まれた手首が熱い…気がする。あのまま食べられそうかと思う程の雄らしさが生々しい。うぅ、…アホ新開、バカ新開…なんなのよ、もう。




ルームウェアに着替えて、顔を軽く叩いて気持ちをリセットする。
そんな割には恐る恐る戸を開けた。
するといつもの新開君がいた。
「…昼間悪かったな」
「はぁ…もういいよ」


キッチンに立ち夕飯を作ろうとエプロンをして、材料を出す。そんな私についてきて話し出すアホ新開。

「今日は何にするんだ?」
「え、昼言ってたじゃん」
昼の事さえ忘れたのか?大丈夫かこいつ。そして私の恋路の邪魔した言葉のそれを作ろうとする私も甘過ぎる気がする。

「…ああ、そうだったな。忘れてた」
「は?」
不思議な新開君だ。
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