抱き合う


6月に入り、梅雨時期になる。花粉も少しは落ち着いて過ごしやすいっちゃ過ごしやすい時期に入る。又衣替えの時期でもあり、街の人の服装もぐっと軽装になっている。

いつもより遅い時間にバタバタと用意して玄関に行く。そんな時リビングから新開君が覗いてきて声をかけてくる。

「なまえさん日焼け止めは良いのか?シミになるぞ?」

そうだねー、確かにもう紫外線強いからねって…。

「っ、余計なお世話です!」

とか言いつつもそこらにあった日焼け止めクリームをもつ新開君から受け取り、出勤した。




昼休みご飯を食べているとふと後輩の子が話し出す。

「…最近楽しそうですねみょうじさん」
「ぇ、そんな事ないよ?」

えーっと勘繰ってくる後輩。…いや、本当何もないはずだ。同期の彼もアレから音沙汰ない。まぁあらかた新開君のせいだけど…。そういや、新開君といえば確かにこの前の面接結果もうそろそろなはずだ。どうなったかな、面接受けはものすごく良さそうだよなぁ。

「ふふっ…」
「あ、やっぱ何か心当たりあるんじゃないですか!」
「いや、違うって」
「皆言ってますもん、彼氏出来たんじゃないかって」
「っいやいやいやいや!ないよそれ」
「必死すぎません?」

本当居ないから、そんなに疑われても困ってしまう。…新開君はただの同居人だし…ってなんで新開君が頭の中で出てくるの!?普通に考えるなら同期の彼の事だから!私ああいう遊び人っぽい人は大嫌いだし。
そんな事を午後考えたりしながら仕事をしてしまった。なんとも注意力散漫すぎだ。



そしていつもの時間で帰る私。

「ただいまー…」
「おー、おかえり!なまえさん」

新開君が笑顔で出迎えてくれる。

「見てくれこれ!採用なんだ!7月から」

ピラッと見えるところには採用と書かれている。というかこの明るい新開君を見れば疑うところはなかった。

「えー!!凄いじゃん!」
「だろ?」
「面接受けは良いかと思ってた!」
「ははっ おめさん本当酷いな!」

大の大人がはしゃいで思わず抱き合うかのように喜ぶ私達。え…抱き合う?新開君の大きなタレ目とバチッと目が合い、磁石のようにバッと離れた私達。

「え、と、本当おめでとう」
「あ、ああ、嬉しくて…悪い」
「いやいや、あ、ご飯作るね。何が良い!?」
「そうだな!あー…なまえさんの料理ならなんでも良い」
「っ」

…何コレ、何なんなのコレ…カァっと顔が熱苦なる気がする。

新開君に着替えてくると言い部屋に行く。戸を閉めて思わずクローゼットに額をゴンっと軽く打ち付けた。なんで、あーいう台詞パッと出てくるかな…どんだけ手慣れてんのよ…。そしてそれにときめくなって私。



部屋着に着替えて、キッチンに行きエプロンを着ける。すると新開君が寄ってきたので体の半身が緊張してくる。

「なまえさん、俺まだ契約だから、まだ住まわせてくれ」
「…ぁ、そだね」

そうか、そういう予定だった。忘れてたというか、何も考えてなかった。そうだった、しっかり職に就けば新開君出て行くんだったっけ…。何かが揺れる感じで、なぜか胸がズキっとする。

「もしかしておめさん忘れてたか?」
「っ違!早く正社員になれれば良いね」
「ああ、そうだな」

相変わらず穏やかな顔の新開君だった。

「お、今日は中華か?」

そんな私の気持ち知らずに言ってくるご飯大好きな高校生の様な大人新開君。

「好きでしょ?新開君」
「ああ、よくわかってるな」

そりゃ、ここ半年近くご飯を用意していれば嫌でも分かってくる。

「ん、うまい」
「ハイハイ」
「マジだって」
「はーい」

そしてその言葉が本心なのも最近は分かるようになってきた。がどうにも照れ臭いのだ。




その日、風呂上がりに自室に入ったが喉の渇きを覚えてコーヒを飲みたくなった。
戸を開けると新開君はいなかった、おそらく新開君は風呂だろう。もちろん構わずインスタントコーヒを入れる為にキッチンでお湯を沸かす。
あー、直ぐに飲めるように、電気ポットとか買いたいな…でもあれ付けっ放しは光熱費食うんだよね…どこかにも大量の食費食うやつもいるしな。

お湯をマグカップに注いでいたとき新開君が脱衣所から戻ってきた様でリビングの戸が開く。
っ!
その新開君と目が合うがあまりの出来事にバッと目を逸らした。

っなんっで、半裸!?もう暑いから!?一瞬で焼きついた肉体が離れなくなった。全体的に程よくついた筋肉と割れた腹筋なんてお兄ちゃんじゃ見なかった。つーか、むやみやたらにダダ漏れの色気の蛇口を閉めて欲しい。

「俺も牛乳のみたい」

そんな事を考えながら手元のコーヒーを凝視してたら新開君が隣にきて上から声が降ってくる。って、近いから!無言でグラスに牛乳を注いであげた。

「… おめさんそこまで男慣れてないのか?」
「っ別に」

半笑いの新開君に図星を突かれてつい可愛げのない言葉を言い放つ私。

「おめさんモテなそうだからな……って違うぞ。なまえさんの魅力に中々気付けない男が多そうだっていう意味だからな」

横から言われる失礼な台詞やらその声も私には毒だ。だってどうしても硬そうな濡れた腕が目の端に入るから。それから逃げるようにして自室に戻り、ベッドに顔を埋めて消火した。












翌日目が覚め、戸を開けると新開君がまだ布団にくるまっていた。布団を巻き込むようにして丸まって寝ている。まるでハムスターの様だ。
そんな新開君をほっておき朝食を作る。和食の気分なので、味噌汁やら魚やらを焼いて行く、あと漬け物くらいで良いよね。新開君には納豆でもつけてやればご飯1〜2杯は食べてしまうだろう。

「新開君、バイトじゃないの?」

朝食の用意が終わって足先で大きい塊をいじる。なんしろ手で揺するようにして起こすとまるで恋人っぽいからだ。

モゾモゾと動く塊。欠伸をしながら目を擦る新開君…うう、なぜか可愛くみえる。

「…おはよなまえさん」
「おはよう。ご飯出来てるよ」
「おー、食う食う」

寝癖がついたままの新開君。よく起きぬけでご飯食べれるよ全く…呆れながらも笑顔の新開君をチラ見する。そしてどんどん減っていくおかず

「なまえさん、この味噌汁美味いぞ」
「ふふっ、そりゃどーも」

釣られるように笑う私。ああ、もうこんな日常が悪くないのだ、むしろ楽しいのかも。もしかしたら癖になる程に。
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