自覚


正規職員として働くようになった。まぁなまえさんには非正規と言ってるけどな。その為、朝はなまえさんとほぼ一緒に出るようになったのだ。

なまえさんと言えば、甘えてきた風邪の時以降変わらずつれないし、通常と変わらない接し方だ。まぁ熱があったからな…あれは…。あれだけ看病したに関わらずに丈夫な俺にはなまえさんウイルスはくっついてくれなかったらしい。具合悪くない時ほど、たまには風邪をひきたいと思うもんだ。







7月1週目の金曜日、あいつらが俺の再就職祝いに飲み会を開いてくれた。それをなまえさんに伝えてご飯要らないと言っての参加だ。


「やっと働いたかこのヒモ野郎」

靖友がビールを煽りながらいつもの調子で喋る。

「ははっ、もうヒモじゃないぞ。全部金も返したからな」
「もっとフラフラしているかと思ったらあっさり就職したな」

尽八がそう言い、寿一がウンウンと頷いている。

「ああ、また朝が早くなって辛いとこだな」
「遅刻はするなよ」
「分かってるぜ寿一」

適当な話になり、お互いの近況を話したりする。相変わらず暇さえあれば走りに行くのは変わらない俺たちだ。

「…そうなると新開、同居は解消したのか?」
「ん?ああ、してないな」
「ハァ!?んでだよ?解消してやれヨ、相手にも都合っつーもんがあンだろ」
「…非正規っつってあるんだ。…まぁ、良いじゃないか」
「同居人とはうまく暮らしているのか?」「そうだ、どんな人なのだ?隼人と暮らせる人というのは?」

寿一までもが聞いてくるので酒の入ったグラスを傾けて波打つ酒を観察しながら、酒で少しボケーっとした頭のまま素直に答えた。

「あー…なまえさんか?まぁ絶世の美女じゃないし、気は長いとかいう割りに意外と短期だし、足癖少し悪いから俺を簡単に蹴るし、他の人には優しいくせに俺には基本冷たいんだ。あとこっちが心配してんのに肝心な時に頼らねぇし…。ああ、そうだな、俺いるのに高いところの物を取ろうとするのにわざわざ土台持ってくるしな。あとメールも要件のみで色気もへったくれもないし、多少この前風邪ひいた時に頼ってきて可愛いくらいだ…まぁ、色々面倒くさいし、小うるさいがそれなり暮らしているな」

「「「…」」」

俺が喋り終わると、3人が黙ってしまった。なぜ黙るのかと顔を見るが長年の付き合いなのに今日は顔色が読めない。
向かいの席の口を歪ませて微妙な顔した靖友が寿一を腕で促していて、寿一が"ああ"と返事をしている。なんだって言うんだおめさん達。
そして寿一が口を動かす。

「新開、いつ結婚だ?」

寿一の衝撃的な言葉に、今一口に含んだ酒を霧状に噴き出した俺。

「っ!きったねぇな!かかったろボケなす!」
「す、すまねぇ靖友…あのな寿一、俺たちは付き合ってないぞ?」

すると隣の尽八がニヤニヤしながらいってくる。

「隼人から女性の悪口と言うかをそんな事を聞くのなんて初めてだぞ?そしてそんな幸せそうな顔で語られてもこちらが困るだろう、それは惚気だ」
「いや、ほらなまえさんだからな…」
「意味分かんねェからァ。なんで働いてんのに非正規とか言うんだっつー話だヨ。それで好きじゃねーっつーなら解消しろヨ」
「ぅ…まぁ、飯は美味いからな」
「金入るんだし、外にでも好きに食いに行けばいいのではないか?」
「…それはまぁ」
「新開チャァン、さっきまでの調子はどーしたヨ?」

向かいの靖友が頬杖つきながらニヤニヤしている。
…。え、マジか?俺なまえさん好きなのか?そうとすると色々とマズイんだけど。そう言えば最近なまえさんでしか…まぁそうだし。なんつーか…変態行為まで多数心当たりあるし、金まで返したとはいえ借りまくってたし…、フラッと女遊びした事もバレていたし…。
え、コレ今更望み薄くね?

「…俺、なまえさんのアパート帰れねぇ…」
「「「は!?」」」

机に突っ伏した俺。今までを思い出すと情けなくて泣きてぇ、もっとかっこよくありたかったぜ…。

「ああ…無理だ。とりあえず誰か今夜泊めてくれ、頭冷やしたいんだ!」
「嫌に決まってんダロ、嫁のとこ帰れダメ4番」
「これで、帰ってあの薄着のなまえさんみて我慢できるわけないだろう」
「ブッ 普通に過ごせねぇのかてめぇは!?…つーか、本気で今までなんもしてねェのォ?」
「…」
「隼人…心当たりがあるのだな?」「新開…」

寿一と尽八の目線が厳しい。

「いや、…まぁ布団越しにちゅーしたくらいだ。あと色々となまえさんが付き合おうとするの阻止したり他諸々…」
「どんだけ鈍いのォ!?さっさと気付けヨ、ボケなす」

うだうだ言う俺を早くアパート帰れと夜空の下に追い出した3人。ちょっと待ってくれ、気持ちの整理ついてないんだって。





とか言いつつアパートに戻った俺。

時刻は予定より早い23時だ、はぁ…他に行く場所がないからな好きな人がいる場所に戻る。そりゃ嬉しいのだが気まず過ぎる…。
目を閉じてドアノブに手をかけたまま部屋に入ってからをシミュレーションする。…そうだ、時間的にもうなまえさん部屋だろう合わないはず。


「…ただいまー…」

…っ、新婚みてぇだ。え、俺いつもこんな事やってたのか。
悶々としながらリビングのドアを開けたら寝間着姿の部屋の主がいた。…そうか、俺遅いと思ってゆっくりしていたのか誤算だった。瞬間胸が高鳴ってくる。

「あ、お帰り。早かったんだね」
「っ」

…フィルターがかかったせいで、なまえさんがアホみたいに可愛くみえる。少し湿っていそうな長い髪を耳にかける仕草にそして何その萌え袖!もう寒くないだろ!?…なまえさんのそんな姿見慣れてる筈なのに目を背けたいくらいだ。

「新開君?」

遠くから不思議そうに顔を傾けて覗き込んでくる。ああ、そんな顔して俺を覗き込んでくるなってなまえさん。つい体が動きそうになる。

「…ああ、もうお開きになったんだ」

そう言いキッチンに行きコップの水を飲み干して気持ちを落ち着かせる。

「そ、てっきり朝帰りかと思ってた」

控えめに笑いながら言うなまえさん。
え…どーすんだ俺、遊び人認定されてるんだけど。今までの行いのせいか!?その対処法をあいつらに教わってなかったなぁ。

「…なまえさん、俺誰でも良いっていう訳じゃないんだぜ?」
「そりゃそうでしょ、新開君おっぱい大きい子選んでそうだもんね」
「…」

おめさん1〜2カ月前の事まだ根に持ってるな。
最近薄着になってきて気付いてたけど、なまえさんは普通にはありそう。…ってこの状況でそんな事考えるな俺、立っちまう。

「っ…いや、まぁそこじゃないんだ!」
「え、じゃぁお尻だった?」
「…」

え、違ったんだ的な顔して真面目に聞いてくるなまえさんは少し面白い。
しかし、その"なまえさんがいいんだ"と言う言葉は本音すぎて出てこない俺の口。なまえさん、俺のその身体だけ的な遊び人設定をやめて欲しいだけど。

ねぇねぇどうなの?と楽しそうに攻めてくるなまえさんに向かって"お尻の大きいのが好きだ"という羽目になった。
やった当たり!と喜んでるなまえさんを見て、楽しそうならまぁいいかと思う俺もどうかしていると思うんだ。


「なぁ、なまえさん。おめさんに好きなタイプはあるのか?」
「新開君以外かな」

華やかな笑顔のなまえさんの言葉に絶句した俺だった。
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