お出かけ


最近新開君が変だと思う時がある。食事を作っていると隣に来て適当な話しをしてきたり、その距離がやたら近かったり…が大体そういう時は面倒くさいので、構わない様にしている。これはルームシェアをする上で必須だろう。

「新開君、仕事どう?」
「問題ないぞ。夕方になると腹が減るくらいだ」

この様子だと確かに問題はなさそうだ。仕事も落ち着き、アパートに帰るのが同じくらいになってきた。寧ろ私より遅かったりもする。
変わらずの生活を送っている私達。お金も先月の間に貸していた全部返してもらって、コンスタンスに生活費を入れてくれる予定の様で安心する。

「なまえさん、この春雨サラダ美味いな」
「そう?」

ちょっと自信作だったので褒められて嬉しい。パクパクと箸を進めてくれて胸が温かくなる。

「ああ、なまえさんの料理好きだ」
「っ、それはどうも」

サラッと褒め言葉を言い放つ新開君のに揺れそうになる私25歳。いやもう、本当口が上手いんだもんこいつ。


「俺が洗うからな」

そう言いながら、皿を重ねて立ち上がる新開君…最近は自ら手伝いをしてくれる新開君に時々甘える。どう言う心境の変化か知らないが良い変化だろう。
なんていうか男性がキッチンに立つ姿と言うのはなかなか好きだったりする。秋口で言えば軽く袖を捲るところとか、私と違う手つきだったり…うん、少し私がマニアックな気がしてくるからやめにしよう。

洗い終わり麦茶をコップに注いできてくれた新開君からコップを受け取る。

「…なまえさん…、今度の土曜日皿買いに行こう」
「え?」
「俺が最初に…半年前に割ったやつの代わりの」
「…っ、もう良いよ?」

いつもよりも言葉を選ぶように話す新開君の言葉に、なんだか気まずさと懐かしさで言葉に詰まった。
そう言えばそういう事もあったな…。もう一緒に暮らして半年になるのか。そしてそんなに真剣に言わなくても良いのに…何を言い出すのかと思ったじゃない。

「なまえさんが良くても、俺が嫌なんだ。買いたい」

そのいつもより真面目な顔に頷くこととなった。そして新開君の手が私に伸びてくるので思わず少し後ろに避ける。

「っ、前髪にゴミ」
「え、ありがと」

…いやいや、なんで避けようとしたの私。いじられた前髪を手直した。







土曜日

とは言っても出掛ける時間すら決めない私達。そりゃそうだ、なんしろ一緒に住んでいるのだから。

「新開君、朝〜」

ちょいちょいと足で新開君のお腹をいつしかのマッサージするように立ちながら新開を起こす。とモゾモゾと動きながら目を覚ます新開君。

「…おはようさん、…おめさんショートパンツでその起こし方は眺め良いんだ。今日は白か、昨日の青のレースのやつ似合ってたぞ」
「っ!」

早く言え!1週間前から一気に暑くなってきて私の部屋着はショートパンツとカップ付きのタンクトップかTシャツになっていた。
思わず新開君から後ずさる。

「っ変態」
「…見えてたんだ、不可抗力だ」

なんとなく見られた今日の下着を替えたくなった。

朝食を食べ終わると新開君がある提案をしてきた。

「そうだ、なまえさん!今日のなまえさんの服俺選びた「え、ヤダ」
「…即答だな。選んで嫌だったら着なくて良いから」
「えー…」

目の前では手を合わせて頼んでくる新開君に折れてみた。うん、最近私は新開君に甘すぎる。部屋に入れて、クローゼットを開けて服を見せてあげる。すると新開くんがこれとこれと指摘する服を取り出す。

「あと、いつも付けてるネックレスのやつだな、下着も選ぶか?」

そう言いながら私を自室に残して新開君が出て行く。もちろん下着の件は断った。
出されたのは買ったけど着てなかったフレアなワンピースと時々きているカーディガン。この組み合わせは考えてなかったけど、悪くないので着ることにした。なんていうか…初めてだ、男の人に服を選んでもらうなんて。

ワンピースに袖を通して、薄いカーディガンを羽織る。…もしやこの薄いカーディガンは私の紫外線対策か?だとしたら余計なお世話だ新開君よ。

指定された服を着てネックレスを持って、少し恥ずかしいが引き戸を開ける。

「こ、これでいいの?」
「おお!似合うぞなまえさん」

スッと褒められて嬉しいけどなんだか恥ずかしい。
新開君がそんな私の手からネックレスを取る。

「?」
「じゃ、これも付けてやるな」
「え」

私の言葉遅く新開が私の正面から腕を回してくる。新開君は"なまえさん不器用だから鏡見ねぇと出来ないんだよなー"と必然的に耳近くで呑気に言いながらネックレスを付けてくれている。
がそんな言葉が遠く感じる程に緊張する。っ、やだ、なんでか顔赤くなりそうなんだけど…え、まだ?ほんの10秒とかからなかったはずなのに何倍に思えた。

「よし」
「っ、ありがと」

ネックレスを付け終わった新開君の鋭い目と目が合うが新開君から盛大に逸らされた。でも、こちらにとっては有り難かった。







荷物を持って、出掛ける。

「なまえさん、取り敢えず○○の方行ってみないか?」
「うん、良いよどこでも」

新開君に連れられて電車に乗る。意外と混んでいる電車内、私を端に追いやって新開君がガードするかのように立ってくれる。…そんな事しなくてもいいのに、むしろやけに手慣れててなんか嫌。とは言っても手慣れてなくてもこの人無意識的にそう出来ちゃう人だよね。


電車を降り、適当に目に入る雑貨屋などに私を連れて行く。

「これなんかどうだ!?」

新開君が笑いを堪える様に変な人形のインテリアを手にとって見せてくる。

「ぷ、何それ。何に使うのよ」
「このみょんみょんと動く所が癒されるだろ?」
「えー…あ、だったらこっちのが面白いでしょ」

くだらない話をしながら雑貨屋を見て回る。

「あ、このお皿にしようかな」

シンプルだけど少し形が変わっていて使うのにちょうど良さそうな物を見つけた私。

「他見なくて良いのか?」
「大丈夫、コレに決めた」

じゃ、買ってくるなと新開君が会計に行く。腕時計をチラ見するともう13時だ。戻ってきた新開君の紙袋を受け取ろうと手を伸ばす。が"これは俺が持つから"とばかりに無言で手をいなされた。


「新開君お腹空いてたでしょ?」

お皿の紙袋をもつ新開くんを見上げる。おそらく我慢してたよね。いつも間食多いしなぁ。

「あぁ、よく分かったな、お腹空いてるんだ」
「どうする?バイキング?」
「…それでいいのか?なまえさん」
「?え、良いけど?」

そんなに新開君の様に馬鹿みたいには食べないし。あ、私の体重を気にしてるのか?相変わらず失礼な奴だ。


直ぐに携帯で検索かけて近くの食べ放題の店に行く。すると新開君の目がパアッと輝きを増した。

「ふふっ、本当素直だね新開君」
「っ、おめさん俺を馬鹿にしてないか?」

少し横目で私を睨んでくる新開君。

「そんな事ないよ」

むしろカッコ可愛いと思ってしまって困っている今日この頃だ。単なる垂れ目の筈なのに、まぁ…それなりにかっこいい目付きにタジタジにされている。


…目の前に並ぶおかずとかが盛られたお皿が消えていく。

「…新開君サラダも食べなさい」

取り敢えず野菜も勧めておいた。もしゃもしゃと幸せそうに食べている。作る方としても嬉しいだろう。というかこんなに食べる事が出来るのか…家ではやはり抑えられていたのか。

「なまえさんはもう良いのか?」
「新開君が良さそうになったらデザートでも食べるよ」
「おお、悪いな」

暫くしてから新開君と連れ立ってデザート付近でケーキやら和菓子やらアイスを選ぶ。目に入るのは新開君のプレートの上だ。

「新開君どれだけ…」
「なまえさん、俺の少しずつにするか?」
「あー、そうする」

戻ってきて新開君のお皿のスイーツから一口ずつ頂いて行く。これは新開君としか出来ないだろう、なんとも贅沢だ。

「新開君、これ好きそう」
「おお、確かに好きだ。よく知ってるな」
「そりゃ半年一緒に住んでいますから…」

好みくらいは熟知している。
何気なしにそんな事を言った瞬間、新開君の目線が僅かに泳いだ。それが何か不思議で、その"何か"を確証するためにティッシュを持って、新開君の口の端に付いているクリームを拭ってあげる。と変わらない表情なのに…分かりにくいけど、少し目線が泳いだ。これ新開君照れているという事だろう、分かりにくいけど。

「ふふ」
「どうした?なまえさん」
「いや、何でもないよ」
「そうかぁ?」

全く、私で照れないでよ…調子が狂うじゃない。




「じゃ、帰ろうか」
「いや、まだどっか寄ろうぜ。予定ないだろ?」

帰り出す一歩を歩んだ瞬間に二の腕を掴まれ止められた。予定はないのはご承知の通りだ。

「あのね、私を暇人の様に言うけどね…」
「暇だろ?」
「まぁ…」

その自信満々な感じにムカつきを覚える。

「…よし、あすこ行こう」

ピッと指差す先の看板は駅数個先の水族館…そこに向かう私たち。もうここ10年くらい行っていないので少し楽しみになる単純な私。そう、人間っていうのは昔から変わらないのだ。

「新開君、昔からこー言う人なの?」
「…それはどういう意味だ?」
「んー…と、飄々してて、人の事よく見ているし、優しいし、潤滑油的な…」
「っ」

ありのままを言ってしまっていて小っ恥ずかしくなった。それに気付いて思わず下を向く。

「…なまえさん、どうしたんだ?」
「っ何でもない!」


水族館に着いて薄暗い中、色とりどりの魚をを見学していく。

「…なぁなまえさん。水族館って腹減らないか?」
「言っちゃいけないでしょ、それ」

休日とあって辺りは家族連れかカップルだらけだ。そして薄暗いしね、そりゃデートとしては中々ムードが良いかもしれない。
ちらっと新開君の横顔を盗み見ようとするとなぜか新開君と目が合った。

「え、何!?」

さすがに見られていた事にビックリする。

「…いやぁ…魚みるなまえさん可愛いなと…」
「は!?目ぇおかしいんじゃない?」
「そんな事ないぜ?なまえさんは可愛いぞ!」
「っ!分かったから!!」

公衆の中、平然とキッパリ言い放つ新開君を置いて逃げるかの様に先の水槽を見に行く。そんな私を背後からノコノコ着いてくる気配がする。
フゥッ

「ン、」

耳に感じる息に思わずびくっとしてしまった。

「くく…ホラ可愛いだろ?」

その自信過剰なセリフを言う飄々としている新開君を睨むが効果はなかった。


「なまえさんお土産買わなくていいのか?」
「良いよ、もうそんな歳じゃないし」
「よし、俺買ってくる」
「え、聞いてる?」

お土産エリアで新開君は店に入っていった。あの自由人め…なので近くの椅子で待つ事にした私。
そして何かを買ってきたらしい新開君が横に座る。

「何買ってきたの?」
「良いもの…つっても安モンだけどな。今日の服装に似合うぞ」

ピリッと開けた先は小降りの箱。それを開けると控え目な細身のブレスレット、アクセントに青が使われている。水族館的な要素はその青色のみだ。

「え、私に!?」
「…いつもお世話になっているからな、僅かな御礼だ」

そう言い私の手首に付けてくれる新開君。新開君の少しゴツゴツした手が私の手首を触る。

「ありがとう…」
「ああ」

新開君は私の膝の上にあった手首を引き寄せ、私のブレスレットをした手首にキスをした。手首に感じる新開君の厚い唇と柔らかい髪の毛…っ!本当やめて欲しい心臓が持たないんですけど!?周りの若い女の子が遠くからキャーキャー言っている。そりゃ、気持ちはよく分かる。
ああ、でもこの速い心臓の音には誰も気付かないで欲しい。
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