誕生日
「なぁ、なまえさん。明日俺誕生日なんだ」
一応ヒモではなくなった新開君が、箸で肉を掴みながら言い出す。そうか24になるのか…少し羨ましい。
「へぇ」
「と言うことで祝ってくれ」
なんとも図々しいというか新開君らしい新開君だ。今日も明日も平日だ、何をしろと言うのか。
「え、何が欲しいの?」
「ああ、なまえさんが欲しい」
「…あげる訳ないでしょ?」
えーっと不満そうに言う新開君。…ここ最近やたら変な発言が増えた気がする、いや元からだっけか。
「じや、夕飯好きなのにするから」
「あとマッサージもして欲しい」
「ハイハイ」
「あと背中も流して欲しい、あと色々世話してくれ」
「は!?」
「よし、明日も仕事頑張れそうだ。よろしくなまえさん」
ちょ、ちょっと待てコラ、私最後の方は了承してない!新開君は飄々と言い放って空になったお皿を持って鼻歌交じりに洗いに行った。そう最近は皿洗いまでしてくれる様になった新開君。え、そうじゃなくてちょっと本当やらないとダメなの?
…
7月15日
朝、丸まってる新開君を起こす…もちろんしゃがみながらだ。
「新開君ー、朝だよ。起きなー」
「ん、」
「はい、誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとさん」
…この男はなんでこう朝っぱらから色気を垂れ流しているのだろうか。止める所はどこについているのか。朝から無造作にかきあげる髪だったり、覗く首元だったりがなんとも…って変態か私は。
「はぁ、今日定時で帰るから」
「おお!嬉しいな、俺も頑張るわ」
そんな会話をしながらお互いに駅に向かった。
…
とか言いつつそう早く帰ろうとする日に限って仕事は残るもんだ。結局これじゃいつもと同じじゃない。まぁしょうがないか。
家に帰ったら新開君の靴もなかった。新開君もまだの様だ。その時メールが届いた。
"悪い、20時くらいになりそうだ"
なら好都合。さっさと料理を作ろうじゃないか。誕生日を祝うなんてすごく久しぶりな気がする。意外と素直に新開君の世話をやく事に好意的な私自身にビックリする。
「ただいまー」
「…おかえり」
「おお!」
珍しく出迎えてあげたら新開君が喜んでくれた。なんとも単純な男め。
テーブルの上に並ぶ料理を見てテンション上げている新開君は24にみえない。
おもむろにネクタイを緩めてスーツを脱ぎ出す新開君。…最近は私を空気とでも思っているのか平気でボクサーパンツ一枚でふらつく新開君だ。服を脱ぐ新開君の色気も24にはみえない。
「はい、ビール」
誕生日なので注いであげる。
「珍しいな」
「今日だけね、朝も言ったけど誕生日おめでとうございます」
「ああ、すげぇ嬉しいよ」
こう素直に言われるとドキッとする。やはりこういう要所要所を掴む所は本当良い男過ぎる。
テーブルの上のおかずはどんどん新開君の胃袋に入っていく。本当良く食べてくれる高校生の様だ。
「本当好きだね」
「ああ、大好きだ」
食べ終わり、今日は私が皿洗いをしてあげる。なぜかそんな私を横から黙って見てくる新開君。あんたじゃないし私は割らないよ?黙っている新開君は嫌いじゃないから困ってしまう。やはりそれなりに端正な顔の作りしているしなぁ…好きだけどある意味苦手なタイプだ。
「マッサージとお風呂どっち先が良い?」
「おめさんを含めてワンモア」
しれっと言い放つ新開君。
…ちょっとそれ罰ゲームにしかならないんだけど。ほらほらと笑顔で新開君が目で促してくる。くそ…女は度胸だ。今日は甘い私はゆっくり口を開いた。
「ぅっ…マッサージとお風呂、と私…どれが先が良い?」
小声で言ったけど聞こえた様だ。そして新開君が蹲った。ちょ、そんなに笑わなくても良いじゃない。
「っ新開君が言えって言ったんじゃん!!」
「…っ、ああ、ほんとありがとうな」
「ったくもう」
「…はぁ、シャワー浴びてくるわ。そうだ背中も流してくれ」
スタスタと脱衣所に向かう新開君のTシャツを掴む。
「いや、だからそれは…」
「…俺誕生日」
「…」
あの、誕生日は好き勝手やっていい日じゃないんだよ?新開君よ。私の戸惑い知ってか知らずか、新開君は風呂場へ消えていった。
シャワーの音が聞こえてきたので脱衣所で待機するいつもより新開君に甘い私。…本当何してんだろ私、同居人の遊び人を出迎えて、世話焼いて、これから背中を流すという…ぅああぁぁ!もうお嫁にいけない!!衝動に任せて洗濯機にドカンと拳を振り下ろした。
「!?何かしたか?なまえさん」
「っ何も!?」
「なまえさんー、よろしくー」
気の抜けた反響する声が聞こえたので、意を決してドアを開ける。立ち込める湿気が肌にまとわりつく。
…新開君の濡れた背中…やはり断れば良かった、私には刺激が強すぎる。小さな座椅子にタオルを巻いて腰掛ける新開君。にしても綺麗な体してるなマネキンみたいだ…マネキン…そうマネキンだ、そう思えなまえ!マネキンを洗うイメージだ!目を閉じて一瞬で暗示をかけた。
タオルをもらい、ボディソープをつけて泡立てて洗っていく。
「はーい、気持ち良いですかー?」
「ああ、ちょうど良いぞ」
広い背中だ。私にはないだろう筋肉の僅かな凹凸になんとなく触りたくなる。
…マネキンならアリだろう、謎な理屈で背筋がありそうな所を手のひらでなぞる。
「っ!」
…少し面白い。やはり私の身体とは作りが違うよね。そのままペタペタと触っていく。
「っ、金取るぞ」
「ならこのサービスにもお金払って頂きたいです」
「…なら前も「何か言った!?」
「っ!おめさんそれはいてぇよ」
「なら黙って洗われてて下さい」
さすがにゴシッと強めにしたら痛かったらしい。ので撫でてあげる。
「よしよし…」
「っとに、おめさんは…」
「はい、終了。シャワーかして」
新開君からシャワーヘッドを奪う。手でなぞりながら流してあげる。よし、小さい時ぶりに背中を流すとかしたけど悪くない。
呑気にそんな事を思っていたらいきなり新開君が立ち上がった。
「え…!?」
「…っダメなんだもう」
新開君が濡れた手でガシッと私の肩を掴む。本気で目線のやり場に困る…下なんか絶対向けないし、濡れた胸見るのもアレだし、横向いてたらやたら照れているみたいだし迷った挙句新開君の顔に行き着いた。
新開君が伏せ目がちに見つめてきて、その真剣な目に言葉が出てこない。
「……っあの」
沈黙に耐えかねて口を開いた私の肩に濡れた明るい頭が降りて来て肩に乗っかる。
「っ………いやぁ、デザートも食べたいんだ」
「…」
…どんだけ腹減ってんの?買ってこいということか。へぇ、私をパシらすとかいい度胸しているじゃない新開隼人よ。
分かったと言い、新開君の手を外し風呂場を抜け出す。
…熱くなった体にはちょうど良い熱冷ましだ。本当暑い、暑すぎる。顔が赤いのも風呂場が暑かったせいだ。そして見てない!色々見てないぞ私は。自分を戒めながら半袖パーカーをひっかけ、一番近くのコンビニへ出掛けた。
…
明るい店内の中、新開君の好きそうなコンビニスイーツを2個選んで、個人的に食べたいアイスをカゴに入れた。
そんな時に店員さんのお決まり台詞のいらっしゃいませーという言葉が店内に響いたと思ったら、新開君がやってきた。
「え、なんでいるの?」
「っ夜に出歩くなよ!なまえさん」
いきなり強い口調の新開君に一歩後ずさる。え、あんたが私をパシらせてここにいるんだけど…。本気で意味が分からない
。
「いや、意味分からないから」
「っ…そんな格好で「はぁ、ほら新開君のこれ好きでしょ?買って帰るよ」
「…ああ」
腑に落ちない様な新開君と帰り道どちらがビニール袋を持つかで口論になった。
…
「おめさん頑固だな」
少し呆れている新開君にムッとする私。
「誕生日なんだから持たせれば良いじゃない」
むしろパシられてるし。そう言うと新開君がそうじゃないんだとか言っているけど無視をする。
「ふん、私の誕生日の時は盛大にパシらせてあげるから」
「本当か!?」
目を丸くして喜んだ新開君だ。え、新開君ってドMなのだろうか?
「はぁ…シャワー浴びてくる」
「お、背中流すか?」
「間に合ってます」
「いやぁ俺も世話をやきたいんだ」
「変態か」
変態新開君を置いてシャワーを浴びた。まだ新開君の熱気立ち込めるような浴室はなぜか体が熱くなった。
ドライヤーで髪を乾かしているとなぜか奪われたドライヤー。無言で私の髪を乾かしてくれる。
「…」
「…」
えー…と、なんですか結局私が世話をやかれているんですが。丁寧に梳かれる髪だったり、指の手つきだったり自分自身とは違うがとても安心する。
「んー…」
「気持ちいいか?」
「うん」
ドライヤーの音の中から新開君の声を聞き取って返事をする。パシらせた謝罪の意味を込めているのだろう。
そう、まぁ許してあげようじゃないですか気持ちいいし。だんだんと乾いていく髪が残念に感じるくらい悪くないや。ああ、私もどうかしてるな本当。
「ほら、新開君横になって良いよ。踏んであげる」
「おお、悪いな」
言葉は控えめなのにどこか強引な新開君が布団に横になる。壁に手をつきながら足を中心にギュッギュッと踏んでいく。
「あー…良いなそれ」
「ハイハイ」
男性のくせに綺麗な足してズルいぞ新開君。
そんな中新開君がうつ伏せ状態から私を見上げようとするので、足で新開君の明るい頭を布団に押し付ける。
「…俺Mじゃないんだが」
「なら上は見ないでね、黙ってマッサージされてなさい」
言ってから気づいた、黙ってはいたな新開君。
腰付近に跨り、背中を押していく。身動きが少なくなってきた新開君、というか寝そう?…ウトウトしながら起きようとする姿は24歳ではないね、少し可愛いじゃないですか。
暫くすると眠りに落ちた新開君。そう思えば私のマッサージの腕も中々じゃないだろうか、思わず笑みを浮かべる。
寝ている新開君にブランケットをかけ、明るい髪に撫でながらキスをした。
「…誕生日おめでとう…新開君」
本当めんどくさい奴…、でももしかしたら、そんな新開君だからこそ私は気になるのだろうか。
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