0センチ


はい、同居人の何ていうか…その自慰行為を手伝った女です。もう完全にお嫁に行けません。本当何あれ、目隠しして握ったくらいしかしてない…けどあんなに硬くて早く擦るもんなの?平謝りする新開君を無視して寝たのは新しい。だ、だって気になってる人のものを握るとか、まずあり得ない。
あれから、私がビビっているせいか知らないけど微妙な距離のせいで何も同居生活には問題なかった。





お盆休みも終わり、始まった仕事。その金曜に合コンに誘われていた私。ほぼ人数合わせに近いけど後輩や同年の子に相手中々スペック良いからと言われての参加だ。

…まぁ、ここ最近私は色々とおかしいから丁度いいチャンスなのかもしれない。おかしいのは私がガッツリと新開君が気になってしまっていることだ。
もう、だってここ一、二ヶ月新開君も私もどうかしているからなぁ…。

「私明日の夜飲み会だから」
「ああ、俺も納涼会に誘われているんだ」

木曜の夕食時にそんな話をした私達。





金曜キャイキャイする彼女達に混ざって、釣られてテンションを上げさせられる。何だかこういうの久しぶりかもしれない。後輩の彼女らに混ざり、金曜の夜の街を歩く足は軽やかになる。
そして合コン場所の飲み屋に行ったら男性陣が到着していた。

「…」
「…」

その瞬間、現場で固まる私。なにしろ今凄く会いたくない人物が混ざっていたのだ。
スーツのネクタイを緩めた、見慣れた姿…そう、もちろん新開君だ。そんな新開君も言葉にはしないが私を見て驚いていた。

つーかなんで合コンに…、そりゃ昨日言っていたような…っていうか新開君、納涼会って言ってたのに…。
何となくな気まずさと淋しさを感じて胸が苦しくなる。
隣で話す後輩達の会話を耳に入ってくる。ちょっ、新開君含め男性陣がカッコいいとか女性陣テンション上がっちゃってるじゃないですか。どうすんのよこれ。1人蚊帳の外にいる気がしてきてしまう上に気まずくて息が詰まりそうだ。

「みょうじさんどうしました?」
「あ、いや、何でもないよ」

いきなりテンションダダ下がりの私を不思議に思ったのか後輩が覗き込むので張り付いた笑顔で答える。ああ、もう何ていうか合コン相手に兄弟きたレベルに気まずい。

料理が運ばれてきて目を輝かせる対岸の新開君。が他の人の手前少し大人しめだ。私はさっさと食べて一次会で速攻帰る、新開君置いて逃げる。新開君を吹っ切ろうとしたのに吹っ切らせてくれないようで神様を恨むよ…。

私にとって微妙な合コンがスタートした。適当な紹介をしながら笑顔で対応する。新開君の紹介の時は、女性陣が興味津々な感じでなんだか胸が痛くなる。1人取り残されている感が半端ない。周りの光景がただ流れていくようだ。

手元のお酒をちょいちょい飲むことと相槌で間をもたせた私。
そんな中でも小一時間ほど経ってくると、酔いも適度に回ってくる。

「みょうじさん、だっけ?」
「あ、うん」

短髪イケメンさんが話しかけてきてくれた。色々話してくれるので有難く話に乗っかってた。
その人を狙っていたのか、もしくは私の応援なのか分からないが大学も仕事も後輩の女の子が私に寄りかかる様に絡んできた。

「みょうじさんこう見えて処女なんですよね〜」
「マジで!?みょうじさん処女なの!?」
「まって!違うから!」

最大にまずいんだって!何がって世界で1番知られたくない相手がこの空間に居るんだって!!もう…!あんた達声大きいから!!

焦る私に先輩可愛い〜と酔った後輩が抱きついてくるがそんなん知ったことじゃない。知られたくない相手…他のグループで会話しているはずの新開君をチラ見したら目が合いしかも逸らされた。…ほら見ろ凄い微妙じゃない!!
この場はなんとか処女じゃない設定で落ち着いた。いや、もう落ち着いてないんだけど。

私がアタフタしている間にいつの間にかベタな王様ゲームとなっていた。
いや、もう帰りたい…、しかしこの盛り上がってる空気を壊すことが出来ない生粋の日本人な私も参加する。10人も居るから基本的には当たらないだろう。お題も生易しいし問題はなかった。

「1番と8番でポッキーゲームでぇ…」

楽しそうな声が部屋に響く…しまった1番だ。おずおずと手を挙げると8番はさっきの短髪の彼。煽てられる周りの声に逆らうことも出来なく彼と向き合う。

「どっち咥える?」
「えー…じゃ私かな」

そんな私達を冷やかす声をもちろん無視する。
人参スティックを咥える私。その向こうが咥えた…凄い恥ずかしい上に当たり前だが顔が近い。うう、これやっぱ無理…。
彼が一口かじったところで誰かが彼を引き離した。

「ん!?」

そう新開君だ。
助けてくれたのかと思ったら違った。私の咥える人参の端を新開君が咥えた。

「!?」

途端ざわめく部屋の中、私を特徴的なタレ目で鋭く見つめながら新開君がどんどん人参を食べてくる。っちょ、これ止まるの!?
焦りながらそんな事を思った瞬間、新開君は手元にあったメニュー表で私達の顔を皆から隠した。
おぉーという歓声が遠くから聞こえる中、メニュー表の裏で唇の距離が0センチとなった。新開君の唇はやはりフニッっと柔らかかった。

「ん」

してしまった…と思ったらメニュー表を持たない手で後頭部を逃げられない様にぐっと抑えつけられた。そして唇を割って入ってきそうな舌に戸惑い、必死舌を押し返そうとする。

「んっ…」
「も、少し」

え、なんでぇ…?冷やかしの声が飛び交う部屋の中まさかの展開に頭がついていかない。押し付けられる柔らかい唇を角度を変えられるように押し付けられる、っ腰が抜けそう。

「っ…」

どこか酸素が足りない気がして何度も離そうとするのに新開君が離してくれなくてつい涙目になってくる。メニュー表で隠れてるとは言え、私達が何をしているかはもろバレだ。色々な状況が重なり興奮状態になっているのかギラついた新開君が止まらない。あらゆる状況に耐えられなくて新開君の胸元の服をギュッと握った。も、だめ…。おそらく20秒足らずなのに何分にも感じた。

「おい!新開!!」

笑い声含まれたストップの声がメニュー表の向こうから聞こえる。

「っはぁ…」

それによって長いキスから解放された。少し深かったせいで私達を繋ぐ糸に生々しくて思わず口を抑えて新開君を睨む私と、そんな私を見ながら自分の唇をペロッと舐める何考えているか分からない新開君。

「ああ、この人持ち帰るから」
「へ!?」
「「「「!?」」」」

新開君はサラッと言い放ち、冷やかしの歓声の中、私の荷物も持って私の二の腕を引いて飲み屋を後にした。










「っちょ、新開君!何するの!?私来週からどの顔下げて…!」

ブレスレットが揺れる私の手首を握って先行く新開君に声をかける。本当にあの人達に週明けどんな顔して出て行けばいいって言う話だ。

「あんなこと他の男にさせてたまるかよ」

人気のない薄暗い路地裏に連れて行かれて、先ほどと同じ様に後頭部を固定されて先ほどより深くキスをされる。

「ん、」

入ってくるアルコールの混ざった舌を押し戻そうとするのに絡め取られ、口内をなぞられ、舌を吸われるを繰り返されて頭が真っ白になってしまう。新開君の胸を叩いて限界を知らせる。

「はぁ…はぁ、」
「俺、まだ足りないんだ」

熱のこもった鋭い目に目を奪われる。

「っ!ぁ、せめて、家帰ってから!!…お願い…っ」
「っ!」

そう言ったら新開君は早かった。私の手を引いて電車に乗り、最寄駅からもスタスタ歩く。
私が考えるのは今後の事ばかりだ、しかし家に着くまでの間にバクバクと心臓が早くなっていく。


考えも纏まらないまま、アパートに入るや否や閉めたばかりのドアに押し付けられる。

「っ」
「…俺本気でなまえさんの事本気で好きなんだ、もう限界なんだ」
「っ分かったから!」

近過ぎる距離に顔を背けるが新開君の腕の檻の中、行き場がない。アホみたいに真剣な顔から酔ってはいるけど本気が感じられる。

「だから、その、つ、付き合ってくれないか…?」
「う、あの…」
「…言葉ないなら、了承ととるぞ?」
「っ」

新開君を少し横目で見ても不安そうだがどこか飄々とした顔色だ。私にこの人の相手が出来るのだろうか…色々と思うところはあるけれど、観念して受け入れる事にした。自分の気持ちとこのダメ人間を。

「っ…とっていいから」

小声だったが聞こえた様だ。新開君が抱き締めてきた。明るめの髪が私の頬を掠める。

「すっげぇ嬉しい!なまえさん最高だ!本当すげぇ可愛い!!」
「ああもう!いいでしょ!?部屋入りたい」
「ん、ああ」

私に抱きつく大男を背負う様にリビング、いや新開君部屋に入るや否やカーペットに押し倒されてキスが降ってくる。

「ちょっ」
「…ああ、なまえさんのいい匂いするな」

首元の匂いだかを嗅いでくる新開君の頭を離す様に足と手で全力で押し返す。なんしろ1日の終わりだし、アルコールも混ざってきっと臭いはずだ。

「うぅ、良いじゃないか。俺今まですげぇ我慢してきたんだ」
「…こ、この前、私の手使ったじゃない!」
「…それは別だ。ああ、そうだ、やっぱりおめさん処女なんだな。なのにこの前悪かったな、あんな事させて」
「っ!!」

忘れてた、聞かれてたんだっけ。

「…わ、悪い…?」
「いや?凄くラッキーだ。いま貰って良いのか?」

覆い被さりながら、自信ありげにキラキラした顔で言ってくる新開君の頬を軽くつねる。

「嫌に決まってるでしょ」
「いやぁ、そこはうんと言うところだろ?」
「……だ、だってあの…は、恥ずかしい…し、心の準備が、」
「っ!」

フイッと横向く新開君に取り敢えず今日は勘弁してもらった。


いきなり同居から同棲になった私達だ。はたしてやっていかれるのだろうか。

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