距離
あの日から2週間、新開君は私に触れるのは付き合う前よりも格段に減った…気がする。
付き合う前あたりとか今思えばスキンシップと言う名の触れ合いは多かった気がしてくる。そしてその理由も大体は想像ついているのだ。言ってしまえば、まぁ…その、私があの付き合った当日に断ったせいなのだろうけど。
「あの新開君…」
「なんだ?なまえさん」
夕飯をモグモグと食べている新開君に話しかける。普段と何も変わりない新開君だ。
「その煮物…、美味しい?」
「当たり前じゃないか、味染みてて美味しいぞ?」
そう言い無心で食べ進める新開君。本当付き合う前と変わらない状況だ。最近は皿洗いは新開君がしてくれる、それはもう本当に手慣れたもんだ。
皿洗いが終わってお菓子を食べながらTVをつけながらゆっくりしたりする。
そう問題はここからだ…私と新開君との座る距離は1mはある。いや、きっと私の気にしすぎなんだろうけど、新開君が前よりも遠く感じるのだ。
付き合う前より何考えているか分からなくなってしまっているようで…その、一言で言えば少しだけ寂しい。どちらかといえば今までは勝手にまとわりつく様に引っ付いてくる新開君だからこそ私が引っぺがすのが当たり前だったから。そんな事を思いながら新開君を盗み見る。
「ほら、なまえさん口開けろ」
「っ、ん」
そゆな視線の私に気づいたのか、新開君の手元にあったポッキー私にを突き出してくる。目の前に出されたポッキーを咥えると新開君が端から食べてくる…いつしかのポッキーゲームだ。フニっと軽く唇に触れたと思ったら離れる新開君。
「ははっ ごちそうさま。美味かったぜ?」
「…」
どこかしたり顔な新開君に可愛らしい言葉の一つも出てこない私で泣きなくなる。その、深いキスもあの時以来してないし。…したら変わるもんなのだろうか。
「っ新開君、もう一回…」
「!ああ」
ポッキーを出そうとする新開君の手を止める。
「え?」
「ポッキーなしが良い…」
「…なまえさんはいきなりだな」
僅かに困った様な表情からチュッと可愛らしい音がなるようなキスをしてくれたいつもの新開君。でもそこから先はやはり来てくれないのだ。
「っ…シャワー浴びてきたいんだ。俺先で良いか?」
「え、うん…」
バタバタと下着を持って脱衣所に行ってしまった。…何となく逃げられた感が半端ないんだけど。ポツリと残された部屋の真ん中で浅いため息が漏れた。
新開君の後にシャワーを浴びる私。泡でいつも以上に丁寧に身体を洗いながら敏感なところに少しだけ手を伸ばす。
「っ…」
少し熱くなるような気持ち良さ…、だってこんなの新開君にされたらおかしくなってしまいそうだ。もう、何私は…これじゃ欲しがってるみたいじゃないか。
悶々としながら風呂場から上がりいつも通りカップ付きのタンクトップを着る私。そしてその胸を見下ろす…新開君が好きそうなサイズでもないし、新開君以上の色気もない…しなぁ。脱衣所の鏡の前で、自分の身体を眺めながら先程よりも深いため息をついた。
…
「なまえさん、髪乾かしてやるぜ?」
「ありがと」
脱衣所から出て部屋に入ったらドライヤーを銃の様に少しカッコよく持った新開君に笑ってしまう。
「ふふ、カッコつけ」
「いやぁ、なまえさんには常にカッコよくありたいだろう?」
そんな冗談を言いながら私の長い髪を背後から丁寧に乾かしてくれる。私の歳下彼氏はこう楽しませてくれるのだ。
私は何か返してあげれてるのだろうか…そんな事をここ最近思ってばかりだった。
乾かし終わったと思ったら背後から手を握られた。お風呂上がりなせいか少し柔らかな手のひらから、しっとりとした温もりが伝わってくる。この僅かな沈黙に少し鼓動が速くなる。
「ぁ、の、新開君?」
「っ…ああ」
私が少し戸惑うと、すんなり手首を解放してくれる新開君にもどかしさを感じる。 この僅かな距離がもどかしい。
意を決して振り返って、キスをした。
そして合わさる口から初めて私の方から舌を入れた。厚い唇が何とも柔らかくて魅力的だと私は思う。
「っなまえさん!」
「……だ、ダメだった?」
少し焦った新開君が私の肩を持って引き剥がす。その行為に、胸が痛む…そりゃ下手だけど、拒否されるとかはさすがに胸が痛くなるものがある。
「っいや、ダメじゃない。がなんつーかその、…したくなるからダメなんだ」
凹む私を意味ありげな顔で頭を掻きながら諭してくる新開君。…えーと、それはそのえっちな事をしたくなるって事だよね?直接的にな新開君の言葉がやけにリアルに感じる。
「なまえさん、まだそういう気持ちじゃないんだろ?…俺大切にしてぇから、その、まだ我慢出来るしな。大丈夫だからな」
私を足の間に入れたまま、頭を掻きながら俯く新開君。
「新開君…」
「…いやぁ恥ずかしいな、こういう事言うのも柄じゃないしな。まぁだから嫌じゃねぇんだけど、あんま煽るなよなまえさん」
顔を上げた新開君の少し困った様な表情に胸を打たれる。
…どうするの私、この距離が嫌なのにそれ以上も進めない臆病な私が進むには。
震えそうになる手で新開君の硬く大きい手を両手で触る…もう、腹を決めるしかない。手の甲にキスをして、その中指を少し舐める。
「っ言ったそばから「…今度は拒まない、から…だから」
「…」
「…や、いやだった?」
少し目を丸くする新開君が私に軽いキスをしてくる。
「ん」
「…なまえさん、そうなると今日は止まらないからな」
「…明日休みだから何とかなる…と思う」
「くくっ そんなに気張るなって」
「だって…」
「なまえさんはいつも通り"私の事気持ち良くさせなさい"って言ってる方が似合うぞ」
「っ!んな事言ってません!」
押し殺すように笑いながら、新開君が布団の上で私の身体をなぞり出す。自分の手とは違う少しゴツゴツした手で触れられるというのは、なんだかこの雰囲気は久しぶりかもしれない。どこか緊張する中、意外と頭の中は冷静だった。
「…そう言えば、なまえさん標準的には胸あったんだな、ずっと観察してたんだ」
「っばか…」
そんな私の首元に顔を埋めてくる。同じシャンプーの香りが鼻を掠める。そしてピリッとした痛みが走り、少し身体が動いてしまう。
「っ…」
「…悪いな、これは大丈夫か?痛かったか?」
「だ、大丈夫だから…」
そう、大丈夫だからあまり聞かないで欲しい。腕で顔を隠すがその手を取られて、鋭い目に射抜かれてしまう。
「おめさん顔隠すなよ、勿体無いだろ可愛いのに」
サラッと言ってくる新開君の言葉に言葉を詰まらせる。
そして新開君がTシャツを脱ぎ払い邪魔らしく前髪をかきあげる。なんつー…色気、適度にある腹筋やら胸筋やらそれなりに焼けた肌とか腰から脚の付け根に伸びる筋とか…。
「いやぁ、おめさんにそんなやらしい目で見られると興奮するな」
「っ見てない…」
「ああ、悪かったな」
悪いとも思わなそうに再度私にキスをしてくる。私の口内を這いずり回る舌に舌を絡める。いつかの夜の様にどちらの唾液が分からない液体が口から垂れた。そして目の前には、穏やかな顔の新開君で、その余裕が少しだけ憎たらしけど嫌いではない。
「ん」
「じゃ、なまえさんの初めて堪能させていただきます」
目の前で手を合わせながらアホな言葉を言い放った新開君。そんか頭を軽く叩かざるおえなかった。
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