興味ないの


「新開君さぁ…」

キッチンから私は重々しく口を開く。なんでこんな事を言わなきゃならないのだろうか。しかしながら言っておかないとダメだろう。
人をダメにしそうなクッションに凭れかかる…いやそれに沈んでる新開君がそこにはいた。どうやら点けていたTVは新開君にとってつまらないらしくて、ぐっと沈みこむクッションに包まれて今にも寝ていきそうだ。
この控えめな私の声は聞こえなかった様なので、そばにいき耳を引っ張ったら、びくっとする大きな体。

「ああ、どうした?」
「どうした?じゃないです。なんであのおにぎり食べちゃうのよ、明日のお弁当用にしておいたのに」
「…腹減ってたんだ、悪かった」
「あーもう…」

申し訳なさそうに謝る新開君に向かって、ついため息が出てしまう。なんしろ、新開君との生活は食費がかかるのだ。しかしお米は実家の方から送られてきているので、非常に助かっている現状があった。

「なまえさん」

声をかけられると同時に手を引き寄せられて、新開君の厚い胸板の上にのしかかってしまった。

「っ…何?」
「あのおにぎり美味しそうだったんだ、食べてごめんな」

再度謝りながら私の頭を撫でるかの様にふわっと抱きしめてくる。

「あのね、こんな見え透いた罠に引っかかるわけ無いでしょ?」
「…」

厚い胸から顔を上げてみると、それでも顔色一つ変えていない新開君だ。なのにこの僅かに気まずそうな感じが伝わってくるのは一緒にいる時間が長いからだろう。

「…なまえさんの家のお米美味しいし好きなんだ…そうだ、今度の稲刈りは手伝うからなまえさんの実家に連れて行ってくれない」「はいっ、だめー」
「…俺は最後まで言ってないぜ?」
「お米を作るのは大変なんです、水の管理やら育つまでの過程が色々が大変なの。稲刈り手伝ったとこでペイ出来ないんですー」
「なんだ、手厳しいな」
「ふふ、でもいっぱい食べてくれて嬉しいよ」

笑って許す様に誤魔化したのは、私の勝手な想像の所為だ。
そう自分の実家でタオルを巻いてその上に麦わら帽子を被って稲刈りを手伝う新開君を想像したら、それも悪くないと思ってしまった浅はかな私の頭だったからだ。











ある平日の仕事終わり、日も落ちてきた頃私達はある駅で待ち合わせていた。

行き先は最近出来たという人気のビュッフェだ。この間のおにぎりの埋め合わせにここへ行こうぜとの新開君の案をのんだことになっていた。おにぎり一つで怒りもしないのは私も向こうも百も承知だ。しかしながら気になるお店ではあったので、口実にはうってつけであった。

「ぁー…」

人ごみの中、ため息つく様に腕時計を見る。しかし先ほどから時間は進んでいなくて、そして待ち合わせ時間にはまだ余裕があった。
平日なのに、混み合う待ち合わせスポットは、人の入れ替わりが激しい。どこか楽しそうに連れ立って行く人々を何組も見送っていた。

鞄からスマホを取り出して確認すると"今、向かってるから"との連絡がタイミングよく入った。
予定時刻よりは遅れそうだけれど、でも仕事終わりだししょうがないだろう。
きっと澄ました顔して慌ててるのだろうと、想像すると少しだけ微笑ましい。待ち合わせ場所が賑わってきたので少しだけ離れたところで待とうと歩き出した。


「おねぇさん、ちょっと良いですかー?」
「え…」

声の主を辿るように顔をあげれば、それは知らない人でした。
そして一瞬で気付く…これは、ナンパなんだと。

「今忙しいのですいません」
「あ、つれないねー、帰るんだったら飯でもどう?」

私が"人を待っている"と言っても食い下がる男性。最近ナンパなんて中々無かったのに、なぜ今更?
そして、こうよく見るナンパ光景の為か周りもさほど気にしてはいない。
え、早く離れてほしいんだけれど…うだうだとシツコイナンパにグッとバックを持つ手に力が入る。

ナンパ野郎は痺れを切らしたのか、そんな私の腕を掴んだ。その瞬間だった。


「悪いな、こいついい男にしか興味ねぇんだ」

ナンパ野郎と私の間に、ナンパ野郎の手を捻るように割り込んだのは願ってもいない新開君であった。あまりのタイミングの良さに唖然とする。ビックリしたのは私だけではなくナンパ野郎も目を丸くしていた。しかしながら、その頼もしい背中に釘付けになってしまったのは閉まっておこう。

「よし、行こう」

新開君はそう言いつつ、私の腰に手を回してお店のある方へ歩き出した。もちろんナンパ野郎を残してだ。

「あのね…」
「…なまえさんは最近ガードが緩いな」
「そんな事ないからね?」

店の灯りで見えるは、チラッと意味ありげに私を見てくる新開君。そのどこか自信有り気なところが魅力でもあり、危なっかしいとこでもあるのだろう。

「で、どこに"いい男"が居るのかな、教えて欲しいんだけど?」
「あぁ"俺にしか興味ないんだ"って言うべきだったな、間違えた」

改めて聞く私に、覗くように不敵な顔で笑う新開君。そしてあながち間違ってはいないその言葉の返事に、少しだけ回された腕を抓ってあげた。
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